神奈川県出身で、白川町役場職員の根岸宏旭(ねぎしこうき)さん。
仕事だけでなく、自分で田畑を借りお米や野菜をつくるなど、精力的に地域での暮らしを楽しんでいます。
白川町との出会いは、大学時代に所属したゼミの研究テーマが『里山の機能を可視化する』ことだったから。その後は新卒で白川町で就職しました。
「目の前に田んぼがあるからやりたいし、山があるから手を出したい(笑)」
という考え方、日々の選択についてお聞きしてきました。
「周りに生かされている」白川町での生活
——根岸さんは、町の職員になって2年目(取材は2026年6月)と聞きました。
そうですね。今は振興課に所属していて、地域通貨『ShiRaCa(しらか)*』の町民カードの発行や各種手続き、秋に行われる『ふるさとまつり』の事務局なんかを担当させてもらってます。
*地域通貨とは、決められた地域やコミュニティ内でのみ使える通貨のことです。白川町では、白川町商工会が令和7年3月1日よりデジタル地域通貨「しらかShiRaCa」の運用を始めました(白川町HPより引用)

取材は、役場の1階ロビーで行いました。「普段買い物をしてて、レジからShiRaCaの決済音が聞こえてくると嬉しいですね」と根岸さん
——プライベートでは近隣で田んぼや畑も借りているとか。
今年は、稲の苗を手植えしました。他にもいろいろやりたいことがあって、手が追いつかないぐらいです(笑)
近所の方はトラクターを貸してくれたり、知らない間に田んぼの水の量を調整してくれてたりとか…ほんとにありがたいです。
——白川町の人は、やりたいことがある人にすごく協力的ですよね。
白川町に来てから、自分で生きてるんじゃなくて生かされてるなというのはすごく感じます。親戚も誰もいない、元は縁もゆかりもない土地でこうやって生活できてることはすごいことだなと思います。

手植え作業中の根岸さん(ご本人提供)
——生きてるんじゃなくて生かされてる、ですか。
なんだろう…僕は白川町にすごく愛着があるというより、フラットな気持ちだと思うんですよ。もし仮に別の地域に住んでたら、それはそれで楽しいこともたくさんあっただろうなと。
でも白川町の自然環境は好きだし、いろんな人にお世話になってます。それは当たり前だと思っちゃいけないし、周りの人に生かされてる。
そうやって振り返ってみると、今までもそうだったなって。両親とかご先祖さま、周りの人に生かされてきたし、自分はひとりじゃないなって思います。だからすごいヘマをした時なんかは、自分だけじゃなくて両親含めご先祖さまたちといっしょに失敗したと思うようにしてますね(笑)

「こんなこと言うと『人のせいにするな!』って思われるかもしれないですけどね(笑)逆に何かを達成した時も、みんなといっしょに達成したと思ってます」
座右の銘は『大は小を兼ねる』
–——白川町に来たことが生き方に影響を与えてますね…!根岸さんは元からそういった”里山での暮らし”に興味があったんですか?
いや、あんまりなかったです。でも元から目の前にあるものを活かして「ここだったらこうするな」とか考えるのが好きなんです。だから目の前に田んぼがあるからやりたいし、山があるから手を出したい(笑)
——目の前の資源を活かすというか、すごく自然体な生き方な気がしますね。
僕の座右の銘は『大は小を兼ねる』なんです。
神奈川の実家のすぐ近くに祖父の家があって小さい頃からよく遊んでたんですけど、とにかく広いところで!敷地内にアパートがあったり、ツリーハウスがつくれたり…なんというか”走り回れる自由”があるなって思ったんです。その経験があって、『広ければ広いほど良い、大は小を兼ねるなんだ!』と思うようになりました(笑)
だから白川みたいに土地が広いほど、いろんなことができるから良いんです(笑)

祖父母の家で遊ぶ根岸さん(写真右・ご本人提供)
——すごいおじいさんだったんですね…!根岸さんがどうやって白川町にたどり着いたか気になります。
生まれ育ったのが神奈川県の綾瀬市っていうところなんですけど、米軍基地(厚木基地)があって国際色豊かな町なんです。小学校の英語の授業は迷彩服を着た軍人さんが来たりしました。僕はその時からミリオタ*で、その軍人さんたちに好きな戦闘機を聞いたりしてました(笑)
*ミリタリーオタクの略。戦闘機や軍艦など、軍事に関わる興味を持つ趣味のこと
——みりおた…初めて聞きました(笑)
機械の性能とか、そういうのが好きなんですよね(笑)
それで海外に興味を持って、大学の国際学部に進学しました。国際協力について学ぶ学部でいろんな国に行かせてもらったんですけど、けっこう大変な目にあって…ベトナムで新聞沙汰になったり、スリランカでジャングルのなかを1人でさまよったり(笑)
体調も崩し気味で、いっしょにいた人から「帰国日がいちばん楽しそう」って言われました(笑)ちょっと海外は自分には合わないのかなと…

小学生の時に軍人さんからもらったという戦闘機の写真(左)と、飲食店でアルバイトしている時にお客さんの軍人さんがくれたというワッペン(右)を今も大事に保管しているそう
——新聞沙汰っていうのが気になりますが…(笑)海外は身体に合わなかったと。
やっぱり日本が好きだなって(笑)それで大学で日本の地方創生について研究するゼミに入って、少しずつ地方に興味を持つようになりました。
コロナ禍にたまたま参加した隣の東白川村が主催したオンラインのイベントで、白川町の人と出会って、それでゼミでの研究テーマを考える時に白川町のことを思い出しました。1回目はワーキングホリデー*で、2回目はその時お世話になった会社でアルバイトしながら滞在して白川町について研究して論文を書きました。
*町外から一定期間地域で働く人を受け入れる”ふるさとワーキングホリデー”制度
——その後は新卒で白川町に来ていますよね?
いちおう就活もしてたんですけど…その時からなんとなく自分はまた白川町に行きそうだなぁって思ってました。
たぶん白川町でいろんな人と関わって、広い土地を見て…自分のなかで「こういう生活ができそうだな」って暮らしの想像をしてたんだと思います。

ワーキングホリデー期間中に、宿泊した『白川町移住交流サポートセンター』の職員と根岸さん(写真中央・ご本人提供)
——いきなり地方で働いたり暮らすことに不安はなかったですか?
そうですね…あんまり(笑)やりたいことがパッと浮かんで、あとはそれをどうやったらできるか考えるので「どうしよう」とかは考えないというか。
それにこっちに来たらもうこっちに住んでる人間なので「こういうのものか」っていう感じですね(笑)だから過去に想像したイメージと今を照らし合わせるとかもしないです。
特別じゃない日々を、積み重ねる
——お話を聞いてると、根岸さんは物事を冷静に、俯瞰的に捉えている印象を受けます。それって意識的にそうされてるんでしょうか。
意識的だと思います。
仕事でミスすると凹む時もありますけど、家に帰ったら料理をつくる自分がいるし(笑)
何か辛いことがあってもそれはその時の1コマで、別の場所に行けば別の生活がある。そういうバランス、切り替えは大事だなと思ってます。
——逆に何かに熱中したり、熱くなることもありますか?
もちろん今までもありましたし、今だと田んぼを始めたらそのことばっかり考えちゃうこともありますけど…そうすると他のことができなくなっちゃうので、そこは気持ちを切り替えるようにしています。

「小学校の卒業アルバムで、みんなが僕の紹介で書いてくれたのは『戦車の絵が上手い』でした(笑)」と、昔から自分の好きなことに真っすぐだったと振り返ります
——だからこそいろんな物事に興味を持って取り組めるのかもしれませんね。取り組みのなかで、根岸さんが特に印象に残ってる出来事はありますか?
そういう”特別なこと”がないように生活してますね(笑)
大学に入ってからは海外へ行ったり、ヒッチハイクしたり、東京にも頻繁に遊びに行ったり…いろんな経験をさせてもらったんで、今は落ち着いて暮らしていきたいと思ってます。
だから田んぼを手伝ってもらったりもそうですけど、白川町での日々の積み重ねが、ありがたいし嬉しいですね。

白川町で、人と繋がり、やりたいことをやり続ける根岸さん。
その日々の積み重ねの先には、どんなものが生まれるんでしょうか。数年後に、またお話を聞いてみたいと思いました。
【根岸 宏旭(ねぎしこうき)さん】
出身 :神奈川県綾瀬市
学校 :拓殖大学大学院
趣味 :ヴァイオリン、乗馬、鉄道模型
読んでいる人に一言 :地域通貨「しらか」の電子マネー、ポイントには有効期限があります。ぜひ、町内加盟店でのお買い物に使ってください!
取材年月:2026年6月
※記事の内容は取材当時のものです。

