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「佐見を見に来てほしい」

世界にひとつだけの”ものづくり”を支えるのは『地域の自然と絆』

佐見地区出身で、地元で板金業を営む安江桂(やすえかつら)さん。その傍らたくさんの趣味を持ち、木工製品やしめ縄づくりなど地域の伝統を残し資源を活用する活動も行っています。その作品にはファンが多く、地域の方から制作依頼が届くことも数多くあります。

 

「佐見にある自然を楽しんでる。みんなに佐見っていう自然豊かなところを見に来てほしい」

 

と語る桂さん。佐見の人と自然に囲まれたその生活や趣味についてお聞きしてきました。

地域を繋ぐ”世界にひとつだけのものづくり”

——桂さんはたくさんの木工製品を手作りしているとお聞きしました。

たまたまYoutubeで作り方の動画を観たのがきっかけやわ(笑)昔から自分で何かつくったり直したりするのは好きやった。

木の形や厚さによってつくる物や、いろんなやり方を考えられる。同じものはなくて、どれも世界にひとつだけやもんで面白い。

桂さんが作った木工作品の数々

桂さんが作った木工作品。この棚も自作です

 

——独学なんですね!すごい…!

建築板金の現場に行くと、大工さんが廃材をぽんっと捨てたりするから、そういうのを見て「何か良いところないかな」って探して貰ってきたりもする。あとは地元の知り合いにお願いして貰ったりね。

そうやってつくったのを、仕事現場で「欲しい人にはあげるよ」って言うとみんな欲しがってくれる(笑)知り合いの新築祝いにテーブルをつくってプレゼントしたりしたね。

友人が撮ってくれたという、桂さんがつくったお皿を使った写真

桂さんがつくったお皿を使った写真。友人が撮ってくれたとのこと(桂さんご提供)

 

桂さんのご自宅に置かれている、自作のテーブル

桂さんのご自宅に置かれている、自作のテーブル。「設計図はないから、ちょっとしたアイデアで使う木やデザインを考える」とのこと

 

—–これを貰ったら嬉しいだろうなぁ!そうやって地域の人から貰ってきた資材を、みんなが喜ぶものにしてプレゼントしているんですね。

「販売したらすぐ売れる」ってみんな言ってくれるけど、おれは好きで趣味としてやってるだけで、これを商売にするつもりはない。

しめ縄づくりもそうやけど、若い人がやらなくなって、伝統的なものを残したり地域の資源を使う技術がどんどんなくなっていくやん?

だから、もしそういうことを習いたい人がいるなら教えてあげたいし、いっしょにやりたいな。

桂さん宅に飾られているしめ縄

桂さん宅に飾られているしめ縄。もち米を田んぼに植え、穂が出る前に狩り(青狩り)乾かしてお正月に編むとのこと。編んだ時は「もっと青い色をしてる」

 

——地域の人を通して、桂さんの元に資材が集まって来る。その資材である木や藁を使う”ものづくり”は、地域の自然を味わい伝統を残すことにも繋がっているんですね。

みんなに佐見を見に来てほしいな。川で捕れる鮎も美味しいし(笑)

それに何でもそうやけど、やってみないと分からんでな。つくり始めた時は、ろくろで削る大きな木が自分の方に飛んできたこともある。どうやったらケガをせずにうまくできるかってことを、頭だけじゃなくて経験から学んでいった。

——やってみないと分からない…それはきっと「痛み」などの身体的なこともそうだし、「楽しい」などの感情もそうですよね。

そうやな。やる前から「これはこうやろう」って考えるだけではダメで、やってみて分かることとか気づくことがある。それは”ものづくり”を通して学んだことやわ。

木工製品やしめ縄を自分でつくるのは、ええ趣味やと思うよ。佐見の自然を楽しめるし、自分だけのオリジナルの作品ができるしさ。

うちにある機械を使ってやってみて、楽しかったら自分で機械を買ってみるのもいいし!

 

「ものづくりが好き」から始まった道のり

——桂さんのこれまでについてもお聞きできますか?

昔から木を使ってものづくりをするのが好きで、中学生の時は木でソリをつくって、冬の山道に水を撒いて凍らせて滑ったりしとった(笑)

中学校を卒業してからは職業訓練校に入って、木工関係のことを覚えた。それで岐阜の羽島市のほうで就職して、お店のカウンターをつくったり室内装飾の仕事をしてたんやわ。

——中学生の時からすごいものをつくってますね(笑)

でも自分は長男で、親父が体調を悪くしたこともあって佐見に帰って来た。

それで東白川村にある建築板金の会社で募集があって、元々興味がある内容やったからそこに入って戸袋(開けた雨戸を収納するために、縁側や窓の敷居の端につくられたもの)をつくったり、依頼された家の家紋を金属加工してつくったりする仕事をしとった。

自分で独立したのは40歳やったね。親父が倒れて、病院に行ったり時間の都合をつける必要があって、親方から「お前はひとりでできるで自分で始めんか?」って話を貰った。

独立後の屋号の看板

独立後の屋号の看板。「親方は技術を教えるんじゃなくて『見て覚えろ』っていう人やった」

 

——そうだったんですね。

親方からは仕事に必要な大きな機械を分けてもらったりもしたね。当時は退職した直後でお金を借りれなかったから、佐見にいる叔父がお金を貸してくれたりもした。「返済は毎月いくらでもいいから」って言ってくれて、ありがたかった。

いろんな人からの応援があって始められたね。

 

自然豊かな”佐見”を楽しむ

——地域の自然や伝統だけでなく、人との繋がりもすごく感じます。

以前住んでた実家は大雨が降ると浸かってしまう場所にあって、家が古くなったタイミングですぐ近くのここに引っ越してきたんよ。

ここは元は田んぼやったんやけど、佐見の知り合いのみんなが集まってくれて、埋め立てやら何やらで助けてもらったね。石積みも同級生がやってくれたで(笑)

桂さんのご自宅前からの景色

桂さんのご自宅前からの景色

 

——埋め立てから石積みまで(笑)職人さんが多い地域ならではですね…!桂さんと佐見という地域が、深く結びついていることが伝わってきます。

他にも「へぼ*」っていうクロスズメバチを飼ったり、頼まれたら蜂の巣の駆除をしたり、巣を探してる山道で生えてるなめこを採ったりもする。アマゴ釣りなんかもするね。

佐見にある自然を楽しんでるっていう感じやわ。だからいろんな人にも佐見の自然豊かなところを見に来てほしいし、これからもそういう自然を残していきたいな。

*白川町では、ご飯に混ぜる『へぼご飯』という郷土料理など、幼虫を食べる文化がある

 

——自然を味わうのは、ものづくりも含めていろんな方法があるんですね。

だから、木工製品やしめ縄づくりに興味がある人は、うちへ来てみて欲しい。

習いながらやるのもええし、機械を貸すから少しずつ自分でやってみるのもええ。

佐見にも少しずつ移住者が増えてるから「こういう場所があるよ」っていうのを知って欲しいし、それを通してより佐見の自然の良さを知ってもらえたらええな。

桂さんがものづくりをする工場

 

桂さんのお話のなかでは、何度も「佐見」という言葉が出てきました。

木や藁など、目の前にある”ものづくり”の資材がどこからきたのか、だれから貰ったのか。

そこには多くの繋がりが含まれていて、その繋がりは目に見えないけれど、”ものづくり”以外の普段の生活のなかにもたくさん張り巡らされているんだと思います。

 

【安江桂(やすえかつら) さん

出身   :佐見

学校   :佐見中学校、職業訓練校

職歴   :建築板金

趣味  :木工製品・しめ縄づくり、養蜂、アマゴ釣りなど

読んでくれている人に一言  :うちの工房と、佐見の自然豊かなところを見に来てほしい。

 

取材年月:2024年1月 

  • 取材執筆:

    澁谷尚樹

  • 写真:

    服部健人

  • 監修:

    白川町役場企画課・Anbai株式会社

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家を『屋号』でよびあう慣習が根づく白川町そんな町の想いを集め人と集落と未来をつなぐ