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「山の上でカラオケ屋を営む理由」

「我が道を行く」店主がつくる、みんなが”わいわい”できる場所

蘇原地区の切井にあるカラオケ屋『わいわい広場』

朝からは一日中注文できるモーニングを提供しており、夜は飲み放題をつけたり持ち込みもできるカラオケボックスに!スナック風のこのお店を切り盛りするのは、横家孝子(よこやたかこ)さん。お客さんから「タカちゃん」の愛称で親しまれています。

 

「悔いのないように一日を過ごしたほうが良いと思うよ。私は失敗もたくさんしてきたけど、ぜんぶ自分で決めて『我が道を行く』で生きてきた。それやったら悔いがないからね」

 

タカちゃんの力強い言葉と佇まいに、煌びやかな店内。山の上に立つお店には、ここでしか味わえない魅力が詰まっています。

我が道を行くしかない

——まずは、このお店を始めるに至った経緯を教えて欲しいです。

元々ここは旦那の実家で、両親が病気になったから戻って来た。

戻って来た当初は隣の七宗町でお店を借りてやってたけど、旦那の具合が悪くなったからそこを閉めて、ここにお店を建てたんやね。

私は商売するのと話が好きやからね、それでやろうかなと思って。

わいわい広場で提供されるモーニングセット

朝8時から一日中提供しているモーニングは、このボリュームで450円。普段とっくりで提供されるのはホットコーヒーのみとのこと

 

——以前からそういったお仕事をされていたんですか?

各務原でスナックをやったのが始まりで、そこから数えるともう36年店をやっとるね。

仕事は”好き”じゃないと長続きせんでね?生活のことは確かに考えないとあかんけど、損得関係なしで商売が好きやからやってるだけだよ。

—–36年…!それだけ「好き」だと思えるのは、どういうところなんでしょう?

たぶん人間関係やろうね。お客さんでも気に入らない人がいたら文句は言うし追い出したこともあったけど、なんやかんや人が好きなんやと思う(笑)

カラオケを歌うタカちゃん(写真左)と取材陣

カラオケを歌うタカちゃん(写真左)と取材陣。「田舎で何もないからこそ、家にいるお年寄りがここに集まってお茶でもしてくれたらいいと思う」

 

—–激しいお店ですね…(笑)

昔から、情がない人とか自分本位の人がいたら、黙っとれんの!ドア開けて「もう出てけ!」って。

別に、私が正しいってわけじゃないんだよ?ただ自分の意見を言ってるだけやで。文句じゃなくて、自分が思ったことは意見として口に出して言う。

経験上、自分の好きなことをやって、思ったことを言うほうが良い。

10人いたら10人ともそれぞれ違う受け取り方をするし、そこで価値観の合う合わないが出てくるやんね?このお店や私の雰囲気に合う人はまた来てくれるし、二度と来ない人もいる。もし来てくれなくても、それはただ価値観が違うだけで仕方がないことやからね。

お店の外観

スナック風のお店(右側)と、後から建てたカラオケボックス(左側)

 

——思ったことを言うからこそ、自分に合う価値観の人が来てくれるんですね。

白川は人が少ないし、繋がりが強いから噂話なんかも回る。

そこに気を遣ってたら大変やし、私も来た当初は苦労した。この町に来たら、周りに馴染まなくても、我が道を行くしかないと思うよ。

——たしかにこの町では知り合いが多い分、人の目が気になることがあります。だからこそ「我が道を行く」を体現している人も多いのかな…

まあ私は元からのこういう性格に輪をかけて、いろんな経験をしとるもんで(笑)

そうやってたくさん失敗はしとるけど、小さい時から自分の思い通りにやってきたから後悔はしてない。自分で選んだことやもん。

だからもし、これから自分の息子たちになにかあっても「お母さんでも今までやってこれた。あんたはお母さんの子やからやれるやろ」って、そんな感じ(笑)もちろんなにかあった時は、親として何とかする覚悟はあるけどね。

笑顔のタカちゃん

「私の人生をぜんぶ打ち込んだら、すごい原稿になるよ(笑)」

 

お金さえ貰えればいい商売じゃない

——たくさんの経験をされたうえで、白川町でお店をやるのはどうですか?

最初は大変やったよ。やっぱりそれぞれの土地柄があるし、そこに合わせていかないといけない。

各務原の時は、お店の運営をしたり珈琲を出すのがメインの仕事やったけど、ここではみんなとお喋りしていないと「愛想のない人間」やと思われる(笑)

だからたくさんお客さんが来たら、だれがどういう話をしてるかを聞いて、もし誰とも喋っていない子がいたら私が相手をする。5人ぐらいの話は同時に聞けるでね(笑)

——聖徳太子ですか(笑)

でも私は人の名前が覚えられんの。だからその人の特徴であだ名をつけちゃう。

昔、身なりが汚い床屋さんが来てくれてた時には、本人に承諾を得て「ばばい床屋*」ってあだ名をつけた。

みんな「ひどいこと言うな!」って言うけど、ちゃんと本人は了承してくれたからね(笑)

*「ばばい」は汚い、という意味の方言

 

カラオケを歌うタカちゃん

いつも夏休みにご家族と来てくれる中学生は、町内で会うと声をかけてくれるんだとか。「昔の常連さんでも、ふと来た時に使えるように当時のチケットは今も残してある。6年前のチケットもあるね」

 

——そう呼べるだけの関係性があるからでしょうけど、たしかに周りの人はびっくりしますよね(笑)

まあほんとに私は失礼な人やと思うよ?(笑)

あ、あと記事にするならこれも書いといて!「カラオケをしていても楽しくなさそうな人は追い出されるお店です」って!(笑)

——え…!?(笑)

なんのためにお店をやってるかって、ひとつは「みんなに楽しんでもらいたい」からやっとるんよ。一日の疲れを癒すって言ったらオーバーかもしれないけど、陽気になって欲しい。

だから、楽しくなさそうな人がいたら私が率先して盛り上げる役目をする。

お金さえ貰えればいい商売じゃない。楽しんでないならうちへ来る意味がないもん(笑)

わいわい広場の内観の様子

「よっぽど私は商売が好きなんやね」と語ります

 

悔いのないように生きる

——『わいわい広場』は、まさに”わいわい”楽しむためのお店なんですね。

うちは食べ物も飲み物も持ち込み可やから、カラオケだけなら何時間お店にいても2000円。

送迎もできるから、白川の他のお店で晩御飯を食べて2次会でうちへ来てくれても良い。そのほうが私も楽やし、みんなのお店も潤うやんね?いろんなお店に、かわりばんこに来てくれるのがいちばんやと思うよ。

——飲食店は減っているけど、そうやって繋がりが生まれて盛り上がっていくといいですよね。今後やっていきたいことなどはありますか?

このお店でイベントができたらいいね。

昔は私が自分で主催したりもしたけど、えらいの*!(笑)だから「タカちゃん、ここでこういうのやりたいからやらしてくれる?」って先頭に立ってやってくれる人がいたら、ぜひやって欲しい。

*「えらい」はしんどい・大変、という意味の方言

 

まあ人生のなかで、白川に来た今がいちばん楽だと思うよ。

それは来た年齢もある。私は40代で来たから、もしもっと若い頃に来てたら刺激が欲しくて出て行ったかもしれない。

人生は、自分で選んで毎日楽しく過ごさないと損やよ?いつ死ぬか分からんでね、悔いのないように生きないと。

わいわい広場の外観

 

波乱に満ちた人生と歯に衣着せぬその言葉は、僕の不安や迷いを和らげてくれたような気がします。

それは自分のなかでいつも抑え込んでいる本音や思いがあるからなのかな…?なんて思ったり。

 

若い人がタカちゃんに話を聞きにくることもあるという『わいわい広場』

どの時間帯に来ても、魅力に満ちたカラオケ屋さんです。

 

【横家 孝子(よこやたかこ) さん

屋号   :下松洞(しもまつぼら)

出身   :下呂市

学校   :洋裁学校(各務原市)

職歴  :飲食店

趣味  :カラオケ

読んでくれている人に一言  :お店に来てわいわい楽しい時間を過ごしてください。

 

取材年月:2024年7月 

※記事中の年月、金額は取材当時のものです。

【わいわい広場】

〒509-1111 

岐阜県加茂郡白川町切井

モーニングは朝8時~12時まで、夜は要予約

ご予約はこちらから→0574731672

  • 取材執筆/写真:

    澁谷尚樹

  • 監修:

    白川町役場企画課

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