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「鮎にかぶりつきたい!!」

鮎釣り歴50年の町長に密着してみたら、取材を忘れて浄化された

6月下旬、白川町全域で『鮎釣り』が解禁されました。(6月10日に白川流域で、その他河川では6月24日に解禁)

※河川の状況や釣り場所情報はこちらから→https://hidagawa.com/

 

町内の川に入り、長い竿で鮎を釣る人たち。

その鮎釣りの人気ぶりから、白川町の食卓で鮎が出ると「これ誰から”貰った”の?」と聞くのが普通なんだとか。

 

白川で鮎釣りをする人々

鮎釣りについてどう取材しようか迷っていると、耳よりの情報が入ってきました。

 

「佐伯町長は、解禁日には必ず鮎釣りに行っている」

 

それは、お供するしかない!

そしてあわよくば、取れたての鮎を食べたい!あわよくば、小学校の林間学校で食べて以来の鮎の串焼きにかぶりついてみたい!!

 

さっそく町長にお願いすると、解禁日の鮎釣りに同行させていただけることに。

町長の休日に密着とは…なんだかテンションが上がります…!

 

黒川周辺に車を停めている様子

当日、車を走らせ黒川地区にある町長の自宅付近へ。

 

釣りと言えば朝早いイメージですが、この日伝えられた集合時間はお昼12時。ずいぶんゆっくりだなと思いつつ町長に電話をかけます。

 

釣り場に繋がる階段

こちらの階段から降りてくれば釣り場に到着するとのこと…

これはなかなか釣り場としては穴場スポットなのかもしれません。とりあえず、参らん!

 

頭を抱える佐伯町長

いました、佐伯町長です!頭を抱えている…?

 

「朝4時過ぎからやってるけど今日はダメや、ぜんぜんかからん」

——朝4時ですか!?

 

どうやら朝は釣りに集中するために、取材同行は午後からとなったようです。

それにしても朝4時とは…イメージよりも遥かに早い!もう開始から8時間経っている様子は、どことなく疲れているようにも見えます…

 

佐伯町長といっしょに鮎釣りをする藤井さん

こちらは解禁日は30年以上、町長といっしょに鮎釣りをしているという藤井さん(実は白川町役場の総務課長)。

ここ3時間釣れていないということでこの表情。

 

町長:「ちょっと釣って見せてやってくれ」

 

藤井さん:「あと5時間ぐらい時間ください…」

 

ご、5時間…なんだか今日はダメな気がしてきました…

そもそも鮎釣りとは、鮎の縄張り争いを利用した釣り。

おとりとなる鮎に針をつけて泳がし、縄張りを守ろうと攻撃してきた鮎がその針に引っ掛かる『友釣り』と呼ばれるもの。

鮎が釣れると、その釣れた活きの良いあゆを新たなおとり鮎にする循環の釣り法。

 

 

「鮎は川の底のほうにおるから、おとり鮎が元気に水中を泳がんと、鮎は攻撃してこない」とのこと。

釣れない時間が長くなれば、どんどんおとり鮎は弱り水面しか泳がなくなる。そうなると釣れないループにハマることもあるんだとか。

 

この日は「岩についている苔が古くなっている」ため、鮎を釣りにくいみたいです。

鮎は苔を食べるので、生えている苔が新鮮なほどその縄張りを守るために攻撃的になります。

 

釣った鮎を入れる「船」と呼ばれる入れ物

釣った鮎は船と呼ばれる入れ物に入れておき、おとり鮎が弱ってきたら船の中の鮎と交換します

鮎釣りの竿は長く、8m~9mが目安と言われます。

おとり鮎をスムーズに泳がせるため、とても細い釣り糸を使います。そのため竿が短いと、糸が張りすぐに切れてしまうんだとか。「老眼になると糸がほぼ見えん(笑)」

通常の竿のようにリールはついておらず、鮎が掛かったら竿を立てくいっと引っ張り釣りあげます。

 

実演しながら鮎釣りについて説明してくれる佐伯町長

糸は緩めず、そして張り過ぎないのがポイント。おとり鮎を好き勝手に泳がすと狙いたい場所から離れていくから、それをきちんと狙う場所に止めておくのも腕やね」

 

説明しながら釣り方を見せてくれる町長。

 

実際に竿を持たせてもらいました。

竿は重くもなく、かといって軽くもない。長時間持ち続けるとボディブローのように効いてくる気がします。

「高い竿はもっと軽いで。でもほんまに高いのは50万円ぐらいする(笑)」

50万円…!!僕が買った中古車よりも高額な釣り竿!!(もちろんリーズナブルなモデルもたくさんあります)

 

竿を持っているとだんだんおとり鮎が移動していってしまったため、町長に竿を返します。

するとその数十秒後…

 

「あれ!?釣れた!!!!持ってみ、この感触が楽しいから」

 

え、釣れた!?持たせてもらった竿がピクピク引っ張られている!!おお…おおおおっ!

 

満面の笑みの佐伯町長

満面の笑み!取材10分でいきなりのヒット!

 

藤井さん:「うそー!うそぉ!?なんで??」

 

釣れた鮎

釣れた鮎にはくっきりと黄色い斑点が!

縄張り意識が強く攻撃的な鮎は、この斑点が鮮やかで黄色味が強いんだとか。

 

新しいおとり鮎に付け替える佐伯町長

釣った鮎をすぐに新しいおとりに

小学4年生の頃から欠かさず鮎釣りを続けているという町長!さすがです!

ちなみに解禁日に鮎釣りをしなかったのは、雨で川に入れなかった日や高校の部活の試合があった日だけ。鮎釣り歴はなんと50年以上!

 

先ほどまでの不安なムードは一変!

 

あっ!!

 

鮎を釣り上げる佐伯町長

おとりの鮎と釣った鮎、2匹がついています

 

釣った鮎を網でキャッチします

サッと引っ張り2匹を網でキャッチ!

時間を置かずにまた釣れました!

 

「良かった、釣って見せられたし。さてと、なにか質問はある?」

 

カメラの前で釣るというプレッシャーから解放されたこともあり、町長は取材モードに。それではお言葉に甘えて…!

 

笑顔の佐伯町長

数時間釣れなかったのに、取材直後に連続2匹を釣り上げてくれました…!

——地元の方からは「町外から鮎釣りの人がたくさん来る」と聞きましたが、鮎釣りが有名なのは昔からなんでしょうか?

そうそう。昔はもっと釣り人がおったよ。見渡すかぎりずらーっと川の両側におった。鮎を釣る人はだいぶ減っちゃったなぁ。

それでも昔のほうがたくさん釣れたけどね。

——そうなんですか!?

うん、今と昔では鮎の性格がだいぶ違う。昔は縄張り意識が強くて、底にいる鮎が水面まで追いかけてくるぐらい激しかった。でも今の鮎は大人しい。

——鮎にも世代があるんですか(笑)釣りにくくなったのことも釣り人が減った原因なんでしょうか?

道具の準備も大変やし、趣味が多様化したのもあるかな。

昔はみんな子どもの頃から釣っとったけど、今は若い人はあんまりおらへん。釣ってる人もだいぶ年取ったからね。60代や70代の人が多くて、新しく始める人は少ないなあ。

 

でも、大変な分だけ奥が深いし、釣れた時の感触は楽しいよ。

 

鮎釣り用のたくさんの針

針だけでもたくさんの種類が!川の流れや狙いによって付け替えるそう。「昔はこんなに種類はなかった」

——釣り歴が長い人がたくさんいるのも、そういった奥深さが要因なんですね。鮎釣りでも少子高齢化が進んでいるんですか…!

そうやね(笑)

——白川町は鮎釣りに適した環境なんでしょうか?

川の形や流れが、鮎を釣りやすい。

後は佐見川の鮎が、鮎の味を競う大会(高知県友釣連盟主催の第22回 清流めぐり利き鮎会)で準グランプリを獲得したのも人気の理由やね。

——町の観光資源になっているんですね!

まあたくさん来てくれると漁業組合さんにお金が入るし(鮎釣りをするには飛騨川漁業組合で釣券を購入する必要がある)、そのお金で来年放流するための稚魚を買うこともできる。

ゴミを落としていく人もいるけど…町としては来てもらえるのは嬉しいよね。

 

笑顔の佐伯町長

「はじめは釣れた鮎をキャッチするだけでも難しい」

という鮎釣りは、道具の量が多く技術も必要なため、新しく始める趣味としては少しハードルがありそう。

ただその奥深さや釣れた時の快感から、一度ハマると抜け出せなくなる。

 

「もうかなり眠い。明日は朝から仕事やから、ほどほどにせんと」

 

佐伯町長が食べる昼食

すぐ裏手にあるご自宅から、遅めの昼食を持ってこられました。穴場スポットというより、家が近いからという理由で鮎釣りは決まってこの場所とのこと。

 

「鮎釣り解禁の日はたいていカレー」といういつもの昼食で、しばし休憩。

 

休憩する藤井さん

3時間釣れなかったという藤井さん。

「ずっと釣れないと、何やってるんだろうって気持ちになる…」

それは、たしかに…!心身の回復に努めています。

 

「釣りをしている人の様子を見たら、釣れているかどうか分かる。釣れない時間が長くなってくるとみんな座り混むから(笑)」

と笑顔で言い残し、2人は午後からの後半戦へ。

 

釣り場のポイントを探し移動する佐伯町長

場所を移動しながらポイントを探す町長。

さっきまでは取材のために、時間を取ってたくさんお話いただいていたみたいです…ありがとうございます。

 

町長たちの様子を見ながら川の流れの音を聞いていると、ぼーっとして過ごすことができます。ゆったりと自然を感じる、気持ちが良い時間。

 

鮎釣りをする佐伯町長と藤井さん

黙々と釣り続ける2人。

たまに竿を引っ張り、弱ってきたおとり鮎を付け替えます。ゆっくりと時間だけが過ぎていく…

 

取材ということも忘れ、自然のリラックス効果を全身で感じてしまっている…

パソコンとにらめっこをしている普段の生活。知らない間に、癒しを求めるぐらいぼくの心は荒れてしまっていたんでしょうか!?

「2人の邪魔をしないように」と自分に言い聞かせ、そのままゆったりと時間を過ごします…

 

釣り場を移動する佐伯町長

 

青々とした山と、透明な水に水草や苔で色のついた川、釣り人。

正面に見える山は、富士山に形が似ていることから「黒川富士」と呼ばれているんだとか。

 

戦いに挑む勇者のような後姿の町長。

そしてこの後、町長はこちらに戻ってくることはありませんでした…

 

ふと時計を見ると、17時になっています。

自然に癒されていたせいか、昼食後以降の記事内容がやや薄くなっている気もしますが悪しからず…

 

町長に声をかけることは難しそうだったので、近くで釣っている藤井さんにご挨拶。

 

「お、もう帰る!?おつかれ!ここにきて釣れ出したから、もうちょっと釣ってから帰るわー!」

町長も藤井さんも、疲れよりも楽しさが上回っているみたいです。

 

 

少し経ってから町長から電話がかかってきました。

 

「おつかれ!鮎、食べる?」

 

えええ…!!?いいんですかっ!あわよくばが叶う!

 

いただいた鮎

こんなにたくさん!

18時頃まで釣ってちょうど30匹釣り上げたとのこと。

「ぜんぜんダメ」というなかでその釣果!鮎ってそんなに釣れるものなのか…!

 

塩焼きにしている鮎

その後すぐに塩焼きにして美味しくいただきました。

 

尻尾から思いっきりかぶりつきます!!美味しい…!尾のジャリっとした感触。塩辛さと身の歯ごたえの後に、ふわっと鼻から爽やかな香りが…

内臓は苦みが少なく、香ばしい味わい!頭は食べるかどうか少し躊躇しましたが、こちらも思い切ってがぶりと!

 

もっと美味しさを伝えたい…!

というかなんでかぶりつく写真撮ってないねん!!

(食べる時にはあたりが真っ暗になっており、すっかり撮り忘れてしまいました)

 

娯楽が増え、凝った趣味に手を出すことは少なくなりました。

でもその趣味を通して奥深さを味わうからこそ、得られるものがあるのかもしれません。そんなことを美味しい鮎を食べながらぼーっと考えていました。

…まあとりあえず、美味しい。

 

今夏の鮎釣りはまだ始まったばかり。みなさんもぜひ一度、釣り人でにぎわう夏の白川町を味わってみてはいかがでしょうか。

 

【釣りをされる方も、されない方も!釣り場情報はこちら】

https://hidagawa.com/?page_id=5722

 

【釣りをされる方は遊漁証が必要となります。遊漁証取扱所はこちら】

https://hidagawa.com/?page_id=240

 

<参考サイト>

飛騨川漁業組合

https://hidagawa.com/

 

誰でもできる鮎釣り入門

http://www.daiwa.globeride.jp/column/ayutsuri/index.html

 

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  • 取材執筆・写真:

    澁谷尚樹

  • 企画・監修:

    白川町役場企画課・Anbai株式会社

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家を『屋号』でよびあう慣習が根づく白川町そんな町の想いを集め人と集落と未来をつなぐ