こんにちは、ライターの澁谷(しぶたに)です。
突然ですがみなさん、11月15日は何の日かご存知でしょうか?
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そうです、正解です。全国の猟師さんが待ち望んでいた『狩猟解禁日』なんです!!
イノシシやシカなど、白川町でも多くの農作物被害を出している有害鳥獣。
町では深刻な被害に対応するため『白川町鳥獣被害防止計画』を策定し、有害鳥獣の捕獲目標や、農作物の被害軽減目標を定めています。
有害鳥獣を駆除・捕獲し、農家や白川町民の生活を守ってくれるのが『白川町猟友会』のみなさん。
他の例に漏れず高齢化が進む猟友会ですが、なんと若手新人が入り、この日の解禁日に”人生初の狩猟”に向かうという情報を入手しました!
それはぜひ取材させて欲しい!
地域おこし協力隊として林業に従事している山本圭汰(やまもとけいた)さんです。(山本さんのヤゴー取材記事はこちら)
取材を快諾してくれた山本さんと猟友会の佐見支部のみなさん。
この日は山本さんからの連絡で、集合場所に朝7時45分に集まりました。
山本さん:
「いやー、緊張するね。このあたりの農家さんはみんなシカとかイノシシをなんとかしてくれって言うし…」
猟師さんたちの元には、実際に地元農家の方々の声がたくさん入ってきているようです。
狩猟の現場に帯同するということでこちらまで緊張してきました。
「もっと朝早いと思ってた。朝8時に集合って言われたんやけど、誰も来ない(笑)」
なかなか集まらない猟友会のみなさん。
猟師さんと言うと大らかなイメージがあるから、その通りの人たちなのかもしれません。
なんだか、緊張よりも不安が大きくなってきた…今のところ狩猟とは真逆の、子犬とのほのぼの写真しか撮れていない…!
いざ狩猟へ出発!
数十分すると、若手の猟師さんを中心に少しずつ集まってきました。みんなには集合時間が8時30分と伝わっていたそうです。
その集合時間を超えてもベテラン猟師さんたちはなかなか姿を見せませんが…
どうやらベテラン猟師さんたちは、近くの山を見回ってイノシシやシカの様子を窺っているそう。なるほど…時間にルーズというわけじゃなかったのか!すみません!
今日は猟師さんは何人ぐらい集まるのか山本さんに聞いてみました。
「うーん…分からない」
情報が!少ない!不安だ…
さらに数十分すると、なんと11人もの猟師さんが集まりました。
解禁日ということもあり、有給を使い仕事を休んで参加されている方も。
「イノシシは全然おらへん。シカはちったぁおるけどな」
「普段は会うのに、鉄砲持っていくとおらへんくなる」
ベテラン猟師さんたちの事前の見回りの様子から、この日の狙いはシカということになりました。
時刻は9時40分。
狩猟はチームで連携して行うため、だれがどのポイントに立つかを確認して、ついに出発です!!!
ゴンタ、時々、シロ
山道を少し登り、普段は柵をされている中へ。
各都道府県で狩猟者登録をすると『ハンターマップ』というものが配られます。(※登録には狩猟免許が必要です)
こちらが令和5年度の岐阜県のハンターマップ。ここで狩猟が可能なエリアが決められています。
ハードな山道を登り、決めたポイントを目指します。かなりキツイ…
この日のために借りてきた『マイティブーツ』という高性能長靴のおかげで、なんとか付いて行きます。ありがとうマイティブーツ。
ふと振り返ると、先ほどまでいた場所を見下ろせる高さに来ています。
「あそこの10枚程度の畑は、毎晩のようにシカが食っちまってる」とベテラン猟師さん。
そんなに被害が出ているんですね…知らなかった。実際に被害を受けている場所を見ると、その深刻さが分かります。
ポイント近くに到着すると、再度お互いのポイントや注意事項を確認。
発砲する際の方角などをきちんと確認し、事故を未然に防ぎます。
「常に山本くんの後ろにいるように」と僕も注意を受けます。
現場に来て、狩猟の危険性についての説明を受けることで、再び緊張感を覚えます。みんなの表情もどこか険しい。
山本さんも、発砲できるよう猟銃を準備します。
イメージよりもハイテクな感じがする猟銃…!
僕のイメージはもちろんこれ↓
静かで、鳥の声以外はほとんど何も聞こえない。
そんな中、銃を動かす金属音や弾薬を装填する際の「カチャ」という音は、さらに張り詰めた空気を感じさせます。
狙いのシカの姿は見えませんが、猟犬がシカを寝床からおびき出し、無線を使いながら猟師さん同士で情報を共有して仕留めるとのこと。
「こんなん急に出てきても、当たる気がしない…」
頑張れ、山本さん!
獲物を見つけるために山を歩き回ると思っていましたが、基本はポイントでの待機。
寒さと、山登りの疲れからやってくる眠気。その中で一瞬のチャンスを逃さないためにも、集中は切らせません。
時間が経つと、少しずつ無線でのやり取りが増えてきました。
-シロとゴンタ、もう少しこっち側に誘導して。尾根のほうを走ってしまっとる。
シロとゴンタはどうやら猟犬の名前。(なんだか懐かしい感じがする名前です…!)
-また、シロが近いところにおるぞ。ゴンタは…
-ゴンタが…シロ…
シロとゴンタの情報しかやり取りされていない…!
獲物を見つけたら猟犬は鳴くらしいんですが、鳴き声が聞こえる気配もありません。
そうこうしていると、山本さんは無線からの連絡を受け猟銃を戻しはじめました。
どうやら目当てのシカは見つからず、一度集合場所に戻りお昼ご飯にするそう。
午後からはポイントを変えるとのことです。
-ゴンタが…
また無線が聞こえます。
あれ?戻らないの?
「ゴンタを捕まえないといかん」
え?
あ。茶色いのが…
いた。ゴンタっぽいやつ。
ちょ、え。それ以上険しい場所を登ったら、降りられるか不安なんですけど…
「ゴンタ見失いましたー!」
嗚呼、ゴンタや…
…
その後無事にベテラン猟師さんに捕まえられたゴンタ。
シカは姿を見せずに午前が終了。とりあえず、山本さんに午前中の感想を聞いてみました。
「どうもこうもないけど…まあ、雰囲気は味わえたかな(笑)」
ついに聞こえた銃砲の先には!?
さて、気持ちを切り替え午後からは別のポイントへ!
多種多様な軽トラの列!
次のポイントは、とんでもない山道を通って向かいます。
「ちょ…車が壊れそう(笑)運転してるのに車酔いしてきた」
地域に住んでいても通ることのない道。
なんとか到着しました…
山本さんは、佐見支部の会長である三ツ石さんから説明を受けます。
「しっかり無線聞いとけよ。もしシカが通った跡があれば、重点的にそこを見とけばええ。たいていは通ったところにもう1回来るで」
またしばらく待機の時間が続きます。
僕にとってはただの待機ですが、猟師さんたちにとっては我慢の時間でもあります。
猟犬や無線からの情報と、周りの様子に注意してシカを探ります。
数十分経つと、山本さんのつけた無線から音が聞こえてくるように。
内容までは分かりませんが、どうやら「シロ」と「ゴンタ」という単語は出てきていません。
…
ドーン!!!!!!
…
え!?
ドーン!!!!!!
ドーン!!!!!!
う、撃ってる!
少し離れたところから銃砲が3発!
あれ!?片付け?
「とりあえず1匹は仕留めたらしい。今から仕留めたシカを運びに行くわ」
2匹出たうちの1匹を、近くのポイントにいた猟師さんが仕留めたとのこと。
ここからは猟犬の鳴き声も無線のやり取りも聞こえなかったので、かなり急な出来事でした。
大きなメスです。
取材に動きがあったことへの安堵と、猟が上手くいったことへの喜び。そしてシカの死体を見ることの、何とも言えない気持ち。
まだ温かい状態で、目を見開いて動かない様子からは、生き物特有の迫力があります。死んでいるけれど、剥製とは違う。本物の迫力。
地面を引きずられて体は汚れているはずなのに、綺麗だとすら感じます。
猟友会のみなさんが集まってきました。
「おぉ、ええとこ命中しとるなぁ!」
「こいつまあまあ大きいか?」「いや、普通やな」
みなさんの高揚感が伝わってきます。
自分で捕って、捌いて食べる
この日の狩猟は、ここまで。
仕留めたシカを捌きます。
綺麗に皮を剥いで、内臓が出ないようにしながら肉を切り分けていきます。
熟練したその手さばきは、じーっと見つめてしまうほど。
僕はただ見ているだけだったのに、お肉を分けてもらいました。
持ってみると、ずっしり重い。これがさっきのシカかぁ…
その後はみんなで打ち上げです。
鴨を飼っているという猟師の方が持ってきてくれた鴨肉と、別の猟師さんが採ってきたシイタケを焼いて食べます。
「今日は絶対無理やと思った。諦めてたなぁ!」
「シカも捕れたし、有給取れて良かったなぁ!会社に感謝やな!」
話も弾み盛り上がります。
シカも、鴨も、シイタケも。自分たちで捕り、育て、捌いたもの。
自分たちで食べるものを、自分たちで用意する。
言葉にすると当たり前のように聞こえるけど、実際はすごく重みのある行為です。
ややお疲れ気味の山本さん。
「イノシシとかシカの肉が好きやし、それを食べるための行為が結果として、農作物被害の減少に繋がればいいかなって。あんまり『誰かのために』って考えると、疲れちゃうと思うから。
自分で捕って、捌いて食べて、それが社会貢献に繋がれば良いな」
狩猟に興味を持った理由をそう語っていた山本さん。初めての狩猟を終えて、どうだったんでしょう。
「いやー、(自分が捕れなかったのは)悔しいなぁ。今のベテランの人たちが生きてるうちに技術を盗んで、まずは1匹捕る。それが目標かな。このあたりの農家さんはみんな「獣害に困ってる」って言うし!」
最後に
次の日、シカ肉をステーキにしていただきました。やっぱり、ずっしりと、重い。
「普通のお肉みたいに焼いたら固くなるで!Youtubeとかにやり方載ってるから、調べて!」とベテラン猟師さん。
美味しい。赤身はぜんぜんしつこくなくて、そのうえ旨味がすごく感じられる…!いくらでも食べることができる気がします。(焼いたお肉は一気に食べてしまいました)
あっさりしているのに、白米が止まらない。次はお酒と合わせてみたい。
シカが捌かれている時、僕はじっと眺めていました。
そこには、悲しさとか、辛さとか、命の重さとか、そういう明確なものを実感する余裕はなくて。ただ胸の奥に何かを感じながら、目の前で行われている行為を受け入れていました。
この文章を書いている今も、胸の奥でじんわり何かを感じています。でもそれはたぶん、一言で言い表せるものではない気がしています。
ただ、猟友会のみなさんが時間と労力をかけ、力を合わせ命懸けで捕ったシカ肉は本当に美味しかった。そしてその行為によって救われる農家や町民の方がたくさんいる。それだけはハッキリと分かります。
これからの猟期期間、
あの高揚感溢れる空間は、毎週のように続いていくんだと思います。