みなさんこんにちは、ヤゴー編集部の澁谷(しぶたに)です。
いつも僕たちは、何かを失ってからそのありがたみに気づきます。もしも失う前に気づくことができれば、もう少し後悔のない日々を送ることができるのかもしれません。
なぜ急にこんなことを言っているのかというと…
今日もまた失ってから気づいたからです。健康の大切さに。
腰が!痛い!!!!
今回の取材で、腰に抱えている爆弾が案の定爆発…
しかし、それでも僕にはみなさんに伝えなければならないことがあるんです!
岐阜県唯一の『オーガニックビレッジ』である白川町
改めまして、ヤゴー編集部の澁谷です。
みなさんは知っていますでしょうか?
令和5年3月29日、白川町は有機農業に地域ぐるみで取り組む町として『オーガニックビレッジ』*を宣言したということを!
*有機農業の生産から消費まで一貫し、農業者のみならず事業者や地域内外の住民を巻き込んだ地域ぐるみの取り組みを行う市町村のこと。
岐阜県で唯一の『オーガニックビレッジ』である白川町。
有機農業とは、化学肥料や農薬に頼らず、自然と調和し多様な生き物と共生しながら行う農業のこと。
町には有機農業を支える「NPO法人ゆうきハートネット(以降「ゆうきハートネット」)」が存在し、有機農家として新規就農した方はこれまで15名以上!
そうなんです。要するに、白川町は有機農業で盛り上がっているんです!
町の情報発信を担当する身としては、なんとしてもこの有機農業の魅力を伝えなければならない!
「人に何かを伝えるには、自分自身が経験することに勝るものなし!」
とどこかで聞いたことがあるので、ツテを頼り有機農家の方の元で2日間農業体験をさせていただくことになりました。
農業体験にご協力していただくのは、2010年に白川町の黒川地区に移住し『和ごころ農園』を営む伊藤和徳(いとうかずのり)さん。
ゆうきハートネットの理事も務める伊藤さんの活動はさまざま。まさに半農半Xと呼ばれる生き方を実践されています!
・有機野菜の販売(年間50種類程度の野菜を育てています。詳しくはこちらから→http://wagokoro.xyz/)
・農業体験の提供
・東濃ヒノキを使ったバレルサウナを使用した「里山のサウナ(https://satoyama37.jp/)」の提供
・白川町の放棄茶畑の再生を目指し「薪火のお茶焙煎所」を建設中
・半農半Xアカデミア(https://on-line-school.jp/course/jibundesignacademia)の講師
今回はいったいどんな体験をさせてもらえるんでしょうか!?さっそくお邪魔してきました!
農業体験の工程
体験初日となった8月28日(月)
この日は朝8時に集合。まずは簡単に2日間の流れを説明してもらいました。
【8月28日(月)】
この日は畑作業だけでなく、伊藤さんが農業以外に行っている「サウナ」や「お茶」の仕事も行う半農半Xな1日です。
【8月29日(火)】
和ごころ農園さんでは火曜日・木曜日に野菜ボックスの宅配を行っているため、火曜日と木曜日は早朝7時から野菜の収穫に向かいます!
全工程を紹介したいところですが、そんなことをしていると記事が終わらないので…かいつまんで進めていきましょう!
恋と農業はタイミング
こちらの畑では『黒千石』と呼ばれる黒大豆を育てています。
鍬を使い土を掘り、その土を寄せて畝(うね)にしていきます。
この土寄せのタイミングが遅いと、雑草がたくさん生えてくるんだとか。
伊藤さん:恋と農業はタイミングなんだよね。
澁谷:はい?
伊藤さん:大学の時はテニスサークルに入っててさ。硬派のね!硬派のテニスサークル!
澁谷:そんなに「硬派」を強調しなくても大丈夫ですよ(笑)
伊藤さん:その時の先輩が「恋とボレーはタイミング」って言ってたんだけど、それって農業にも当てはまるなぁって。
澁谷:えっと、「硬派」なんですよね…?
伊藤さん:「ぜったい今日土寄せをしたほうが良い」って分かってはいるけど、天気とか他の作業との兼ね合いで後回しになったりする。そうやって元の予定が狂って、雑草だらけになったりね(笑)
澁谷:たしかに多品目の野菜や半Xの仕事など、業務が多岐に渡るとそれぞれのタイミングが難しいですよね。
伊藤さん:まあ長年やってるとだんだん対応できるようになったり、諦めがつくようになるね(笑)
最近は異常気象で気候も読めないから、いろんな種類を育てたり、同じ種類でも1週間ずつ種を播く時期をずらしたりしてる。
澁谷:…「恋と農業はタイミング」って言葉が頭から離れない…
伊藤さんは無肥料で育てているため、
土寄せをすることで土の中に新鮮な空気を送り込み、微生物の動きを活発にすることが大切なんだとか。
1時間ほどこの作業を続けていると…
…
早々に僕の限界が近づくなか、タイミングを見極めたように伊藤さんは動きます。
白川町を支える多様な”半X”
予約の入った『里山のサウナ』の準備です。
初めは紙を燃やし火をつけ、その後に薪を燃やし温度を高めていきます。
手にしているのは息子さんの去年の自由研究作品。
伊藤さん:新聞紙ないな…これ燃やしていい?
息子さん:使わないしいいよ。
ということで容赦なく破壊…息子さんの作品はサウナの温度を高めるための貴重な資材となります。
川沿いにあるこちらのサウナ。里山の風景が相まってほんとに気持ちが良いんです。
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基本的に1時間程度でそれぞれの仕事を終え、別の場所に移動していく伊藤さん。
業務が多岐に渡るからでもありますが、伊藤さんにはその働き方が合っているんだとか。
白川町の有機農家のほとんどが家族経営などで行われる「小さな農家」
そのため有機農業だけで生計を立てるのではなく、「X」と呼ばれるそれぞれの事業や取り組みを実践しながら里山暮らしを行っています。
生活のなかで農に触れる時間をつくり、天職と思えることをXに当てはめて生計を立てる半農半Xという生き方。
伊藤さんはその生き方を大切にしており「半農半Xアカデミア」という半農半Xを学び合うオンラインコミュニティの立ち上げも行っています。
醍醐味は『自然との対話』
2日目の朝7時
眠気と腰の痛さを抱えながらも、ぴよーんと跳ねるカエルと戯れているとなんだか明るい気持ちに。
伊藤さん:有機野菜を育てていると、同じ野菜でも植える場所とか種によって成長の仕方がぜんぜん違う!
それに里山での農作業は、山やこの土地ならではの動植物を見ることもできて、自然を身近に感じることができるね。
澁谷:たしかに、場所によって大きさが違う野菜は、とっても自然な環境に近いように見えます(ちっちゃいカエルかわいい…)
伊藤さん:これは僕が「端っこ農法」って呼んでるんだけど、畑の端っこに植えたものは大きく成長するんだよね。理由はよく分からないけど、土が盛り上がっていて栄養がいっぱいあるからかな?
澁谷:あれ、ほんとだ!どの野菜も端っこに植えられたのが一番大きい!
伊藤さん:ここに無肥料栽培のヒントがあるはずなんだよね。申請したら特許とか取れないかなこれ。
澁谷:どんな特許ですか…
同じ有機農家でも出荷方法や考え方によって、育て方は人それぞれ。
伊藤さんがこだわっているのは、無肥料栽培や品種改良されていない「固定種」と呼ばれる種を使うことなどによる、昔ながらの育て方。
その育て方は、より自然を身近に感じることに繋がるみたいです。
伊藤さん:無肥料栽培だと、病気や害虫に対して対策できることが少ない。
でも畑には、害虫の他にも野菜に害のない虫や益虫もいる。多様性とか食物連鎖が畑のなかでうまくいっていれば大きな被害は起きないんだよね。
だから自然のシステムをできるだけ人間が壊さないように、ちょっと手助けするぐらいの気持ちでいる。
澁谷:何か起こった時に、より自然に近い目線で問題解決を計るということなんですね。
伊藤さん:そうそう!野菜がうまく育っていなかったら、肥料をあげようとするのか、それとも僕みたいに苗や土のことを考えるのかの違いという感じ。
僕がしているのは「自然との対話」だね。
澁谷:「自然との対話」かぁ…
有機農家って、
「有機野菜を育てる人」のことだと思っていました。
でもそうじゃなくて「自分は何を大事にして生きていくのかを体現しようとしている人」なのかもしれません。
幸せを見つけたかもしれない29歳の夏
身体に疲れがたまるほど、腰が爆発すればするほど、心地良くなる休憩時間。
『和ごころ農園』さんでお手伝いをしていると、この休憩の時間が格別。
初日のお昼は、伊藤さんの奥さんが作る有機野菜を使った手料理をいただき、家族団らんに混ぜてもらいました。
まさに『伊藤家の食卓』!どんな裏ワザを使ったらこんなに美味しい料理ができるんだ!!
食後は疲れた身体にムチを打ち…夏休み中だった息子さんとキャッチボール。
身体に染み渡るご飯と、家族団らんを感じられる空間に、身も心もじんわりと温かい気持ちになります。
「この時間のことを僕は、幸せって呼ぶのかもしれない…」
29歳の夏の終わり、本気でそんなことを思いました。
終わりに
「手土産に」とこの日収穫した野菜をおすそ分けしていただきました。
同じ種類でも季節によって味わいが変わるなど、その野菜が本来持つ味わいを感じられる有機野菜。
そんな野菜を丁寧に味わうことも「自然と対話」する行為なのかもしれません。
「有機栽培や無肥料栽培はあくまで選択肢のひとつ。これが正しいというわけじゃない」
と繰り返した伊藤さん。
人によって違う”正しさ”。僕は何を大事にして生きていきたいんだろう。
土を触りながら、そんなことを考えるきっかけになる時間でした。