2023~2024年度『白川町赤十字奉仕団*(以下:奉仕団)』の委員長を務めた、黒川地区在住の宇都宮恭子(うつのみややすこ)さん。
*赤十字奉仕団:「赤十字のボランティア活動を通じて地域社会に貢献したい」という思いを持った人びとによって市区町村ごとに組織されたボランティアグループ(日本赤十字社HP参照)
奉仕団では、1人暮らしや高齢者世帯のはげまし運動、施設ボランティア、町の行事や災害時の奉仕活動などを行います。

災害時にもできる調理を学ぶ研修会の様子
恭子さんは奉仕団の他にも、高齢者の方にお弁当を配る『黒川食事サービスボランティア』の活動や、息子さんが住職を務める豊川寺(住職の宇都宮英俊さんの取材記事はこちらから)のお手伝いなど、さまざまな活動を行っています。
「せっかくなら誰かのために何かやるっていうのは悪いことじゃないし、困ってる人がいたらお互いに助け合うのは当たり前ですよね」
笑顔と大きく明るい声で、取り組みについて語ってくれました。
「助け合うのは当たり前」
——まずは、奉仕団の活動について教えて欲しいです。
奉仕団は”災害に対する救援”というボランティアを目的にしています。
普段は高齢者のはげまし運動とか、介護施設のシーツ交換をしたり、講師の方に来ていただいて防災の研修を受けたりしていますね。
そうやって得た知識をみんなに広めていくのも私たちの使命かなと思っています。

研修会の様子。「研修や講習会では、何か1つでもいいから持ち帰って日々役に立てていきたいと思っています」
——個人的に、そういった活動のことをぜんぜん知らなかったです。
最近は人前に出る大きな災害が起きていないので、それはありがたいなと思います。
私が奉仕団に入ってすぐの頃に東海豪雨(2000年9月11~12日に東海地方で起こった豪雨災害)があって、白川から6、7人でボランティアに行ったんです。家が水浸しになってて、汚水が混ざってるから「家のなかにあるもの全部捨てろ」って言われるんですよ。写真のアルバムとか、寝具とか家具を集積所まで運んだりして、その時のことは強く印象に残ってますね。
–—–白川町では水害も多いし、同じような災害が起こることも考えられますよね。
それに白川ってすごい広いじゃないですか。どこかにみんなで集まろうと思っても、なかなか歩いて行けない。
災害の程度によっては、奉仕団の団員も自分たちの安全を確保するために、離れた地区までボランティアに行けないこともあると思うんです。だからこそ1人でも多くの方にボランティアに参加していただいて、もし何かあった時は本当に助けていただきたいです。困った時はみんなで助け合いなので。
——恭子さんが感じる、ボランティア活動の魅力ってどんなところなんでしょう?
めちゃくちゃ楽しいとか、そういうことは…(笑)「やってて良かったなぁ」と思うことはありますけど!(笑)
ただ、当たり前のような感じです。無理にやってるわけじゃなくて、困ってる人がいたらお互いに助け合うのは当たり前のことだと思うし、1人でも多くの人に入ってもらってずっと続けていけるといいですね。今はみんなで助け合っていく時代なので。

奉仕団の委員長を務めるのは2回目という恭子さん。「忙しくて、役を引き受けるのが負担になる方もいるので。私が引き受けることで、お役に立てれば良いかなと思って2回目も引き受けました」
ボランティア活動の根っこにあるのは”父親の教え”
–——「助け合うのは当たり前」という言葉には、すごく自分の行動を考えさせられます…そもそも恭子さんが奉仕団に入ったきっかけは何だったんですか?
昔は自治会に婦人部っていうのがあって、その部長になった時に「部長になった人は奉仕団に入ってね」って先輩に言われて入ったら、上の人たちは誰も入っていなくて(笑)
まあ、はっきり言うと「今辞めたらみんな困るやろうな」と思って、辞めれなかった(笑)
——言った方の勘違いだったのか、意図的だったのか…(笑)
私はずっと父親に「人のためになることをやって生きていかなあかんぞ」って言われて育ってきたんです。私がいつか死んで父親のところに行った時に「ちゃんと俺の言ったことを守ってくれたな」って認めてもらわないと困るので(笑)
そういうのもあって、少しでもできることはやろうかなと思っています。

『黒川食事サービスボランティア』を始めたきっかけはよく覚えていないものの「これもたぶん、当たり前のように誘われて入ったんじゃないかと(笑)」
——恭子さんのなかに染みついていたその教えと、意図せず始めたボランティア活動が合っていたんですね。長くボランティア活動をすることで、ご自身が変わったことってありますか?
「めんどくさい」ってことは思わなくなりましたね。「みんなで助け合うことは当たり前」って思えるようになったので、ボランティア活動が負担とも思わないです。
元から人と関わるのは好きで、主人には「お前はデベソ(「お出かけ好き」の意味)やな。みんなに笑われるぞ」って言われたけど、いろんな活動で出て行くと1人でも多く友だちもつくれますしね(笑)
——なかなかの言われ方ですね…(笑)元の性格や、お父さんからの教え。ボランティア活動が恭子さんにピッタリだったんですかね?
元からではないと思うけど、これまでの経験からボランティアの気持ちが芽生えていったのかな…
そもそもこのお寺に嫁いできたのも「檀家さんのため」っていう意識があったんですよ。亡くなった先代の住職とは、お見合いの数時間会っただけで結婚するかどうかを決めたので。

イベント事など、今も頼まれた際はお寺のお手伝いにも行くとのこと
0日婚から始まる「お寺を守る生活」
——え、0日婚ですか!?
そうです(笑)うちはまったく普通のサラリーマン家庭なので、母はお見合いに反対で断るつもりだったんです。でも、やっぱり父ですよね。「縁あってお寺のお嫁に行けるなら、わしは反対せん」って言って。今思うと私はお父ちゃん子よね(笑)
主人のことは第一印象で悪い人じゃないと思ったし、優しい人で良いなと思ったんですよね。それに父も喜んでくれたので(笑)
——お見合いでも、普通はお付き合いする期間があると思いますが…
お見合いして4、5日後に催促の電話がきて、そこで決まりました(笑)結婚した次の年に、主人が正式に新しい住職になる『晋山式』という大きな行事が迫っていたんですよ。その前にどうしてもお嫁さんが欲しくて、たぶん必死だったんです(笑)だから結婚してから恋愛した、っていう言い方が正しいのかも。

1980年の2月に行われたという晋山式。恭子さんは、6月にお見合いをして11月に結婚式を挙げたそうです
——いくらなんでも催促が早い…(笑)
それで結婚して、主人の先代の住職(義父)が病気になってもう先が長くないってなった時に「あんたは、お寺のためにお嫁に来たんやで」って言われたんです。「ここに来たのは結婚するためじゃなくて、お寺を守るため」って釘を刺されたような感じで。
辛いこととか嫌なこともありましたけど、位牌堂にあるその先代住職の写真の前に座って「あぁ、おじいちゃんとも約束したし、やっぱり出てっちゃあかんよね」って言ったりもしました(笑)そんなこともいっぱいありましたね。
——約束や教わったことを尊重して、貫き通すところが恭子さんのすごいところだと思います。
住職を助けるのはもちろんなんですけど、檀家さんのために何かをするっていうことがお寺を守ることなんです。「檀家さんのためにお寺をきちんとやっていこう」っていう気持ちも、ボランティアに近いところがあるのかなと思うこともありますね。
自分に得なことがあるとか、見返りがあるとか、そういうことは考えずに行動するっていうのが父にも教えられていたことなので(笑)
お寺に38年ほどいて、みなさんのために何ができたかは分からないけど、住職を支えるっていうことだけはそれなりにできたんじゃないかなと思ってます(笑)

結婚生活が長続きする秘訣について尋ねると「我慢ですよね(笑)」と即答した恭子さん。「楽しいこともいっぱいありました。私も我慢したけど、主人もたぶん私のやること言うことに我慢したと思います」
「何かあった時はここに行けばいい」と思える団体に
——恭子さんの今後のこともお聞きしたいです。
地域のみなさんに私たち奉仕団のやっていることを知ってもらいたいですね。誰でも手伝いに来てもらえるし、困ったことがあれば声をかけてもらえればどんなことでもするので、それでみんなが「何かあった時はここに行けばいいんや」って思ってもらえると嬉しいです。
——先のお話にあったように「白川町は広い」からこそ、何より大事なことですよね。
災害に対しては個人の蓄えも大事だけど「ここに行けば大丈夫」っていうのがあれば安心できますよね。
それに奉仕団の他にも食事サービスのボランティアなんかをしてると、配達の人がお弁当を取りに来てくださるんです。その時に「久しぶりやったね。元気?」とか話し合えるし、配達先で「このおかずが美味しかった」って言ってくださる方もいるみたいなんですよ。
コロナ以降人との関わりがすごく少なくなっちゃって「めんどくさい会議がないから楽になったわ」っていう人もいますけど、ボランティアでの時間が人との関係をつくる代わりにもなると思います。

コーラスやゲートボールなど、趣味にも積極的です
——ボランティア活動が日常と非常時の大事なネットワークになる、と。
奉仕団は、令和6年度は236人の方が入ってくれています。ただ高齢化も進んでいるし、必ずしも全員が動ける状態とは限らなくって…
だからみなさん誘って来てもらいたいですね!私は「明るく笑顔で暮らしていきたい」っていうのがあるので、笑顔で、大勢の人を巻き込んでやっていきたいと思っています。
僕たちの日々の生活は、たくさんの人の繋がりや支えがあって成り立っています。でも気を抜くと、そういった当たり前のことさえ忘れてしまう瞬間がある。
「助け合うのは当たり前」と語る恭子さんの姿勢は、日常の優しさを思い出させてくれるようでした。
【宇都宮 恭子さん】
屋号 :永田屋
出身 :下呂市金山町
学校 :加茂高校学校
趣味 :コーラス、ゲートボール
読んでくれている人に一言 :大勢の人を巻き込んで、1人でも多くの人と繋がりたいです。
取材年月:2025年2月