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「野菜BOXで地域おこしを」

本屋から自然農の道へ進み体現する『嘘ごまかしのない生き方』

農薬・肥料を使わない自然栽培でつくった”黒川野菜BOX”を販売するむらざと自然農園

黒川地区に住む代表の古田義巳(よしみ)さんは「あるがままに、天とともに生きるのぢゃ!」を合言葉に、20年以上前に農園を立ち上げました。

野菜の販売の他にも地域おこしのために、地元の農家さんが郷土料理や旬の地産野菜・創作料理を提供する『農家レストランまんま(以下:まんま)の立ち上げ、運営なども行っています。

 

「嘘もごまかしもしないで、正直に、堂々と生きる。それがポリシーやわ」

 

ご自身の理念をそう語った義巳さん。その理念から生まれる活動や、これまでのご経験をお聞きしてきました。

根っこにある「黒川が好き」

——黒川野菜BOXの販売は、ご自身で集荷から配達まで行うとお聞きしました。

そうやね。『むらざと自然農園』に野菜を出してくれる農家が今は12人ぐらいいて、7月から1月の間は水曜日に集荷をして木曜日に配達に行く。

配達は娘が愛知方面、おれのほうは関市、岐阜市、瑞穂市、本巣市、っていうふうに岐阜を回ってる。

お話する義巳さん

元々はレストランなどに卸すために始めた配送ですが、今では宅配希望者のお客さんが多くなったと言います

 

——かなり長距離ですよね…!

自分で配達すると送料がかからないし、なによりお客さんの顔を直接見られるのが良いよね。

配達で会うお客さんのなかには毎年やってる田植えと稲刈りのイベントに来てくれる人もいて、そうやって繋がりができるのは嬉しいな。

—–ただ野菜を売るだけでなく、『まんま』の活動も含め農業を通して実際に人と顔を合わせる活動になっています。

以前は他にも、毎月地元の神社で『朝市楽座』っていうイベントを20年間やってた。10軒ぐらいお店を呼んで野菜を売ったり、バンドを呼んで演奏してもらったりね。

他には『むらざと通信』っていうミニコミ誌(個人や団体が発行するフリーペーパーなどを指す言葉)を発行したりもしてた。広告代として企業から費用を出してもらって、5000部を白川町中に歩いて配った!4日間ぐらいかかったな(笑)

朝市楽座の様子

朝市楽座の様子(ご本人提供)

 

—–どちらもすごい活動ですが…えっと、歩いてですか!?

そう、だから町内はだいたいの家を知っとるよ(笑)

8ページのミニコミ誌をつくって発行したら「サイズ的に機械では新聞に折り込みできない」って言われた。でももうお金を貰って5000部を発行しちゃってるもんで、しゃあないから自分で配ることにしたんやわ(笑)

その様子を見た新聞屋の人が「あいつ歩いて配ってるぞ!?」って組合で話をしてくれて、機械に入る規定サイズにしたら折り込みしてもらえるようになった(笑)

——すごい行動力ですが…それも地域おこしの気持ちから?

そうそう。なんだろう…やっぱり根っこにあるのは黒川が好きだって想いやね。黒川地区は町内でも移住者が多い地区やけど、それでも人口が減っていく。

『まんま』の活動も地元の公民館を借りてやっていて、元々は売上の一部を公民館に入れるために立ち上げた。人が少ないからこそ地域を盛り上げる活動をしたり、少ない人数でもいろんなものを維持できる仕組みをつくっていかないといけない。

『まんま』を利用する町外からのお客さん

『まんま』を利用する町外からのお客さん

 

45歳で、本屋から自然農の道へ

——すべての活動が地域に還元されていて、その軸に「農業」があるんですね。義巳さんは昔から農業に興味があったんですか?

ぜんぜん!元々はさ、大学卒業したら新聞社に入りたかったんだわ。大学の推薦をもらって新聞社の試験を受ける日に、なんと前日お酒を飲んだせいで寝坊してしまった(笑)

真っ青になって就職係の人に電話したら「君は大学の恥だ!」って言われて。しゅーーーんと落ち込んでいつも行く定食屋に行ったら、そこでカミさんと知り合った(笑)去年亡くなってしまったけどね。

——そんなことが…(以前の取材で「スピード違反が結婚のきっかけ(https://yeahgoshirakawa.com/article/1540/)」という話も聞いたけど、それに次ぐ”まさか”の展開…)

その後は名古屋で”学術洋書輸入販売”っていう、大学の先生に外国の本を紹介して学校に仕入れてもらう仕事をしてた。本が好きでね。まあでも英語は嫌いやったけど(笑)

それで30歳の時に、出身大学の先生に会って言われた「おい古田くん、独立するんやったら応援するぞ」っていう甘い言葉に乗って、やります!って独立した(笑)

『SHIRAKAWA BOOK』っていう会社をつくって、名古屋の事務所まで毎日ここから通ってたわ。

当時の会社事務所の看板がかけられている、現在の義巳さんのご自宅

当時の会社事務所にかけられていた看板は、今も義巳さんのご自宅に

 

——名古屋まで2時間近くかかりますよね!?社名も含めて白川愛が伝わってきます(笑)でも英語が嫌いだったんじゃ…

そう、だから向いてなかった(笑)

毎日イギリスとかニューヨークから電話がかかってくるんだよ!読み書きはできるけど、会話は苦手で何を言ってるか分からない(笑)

それにもっと根本的な問題があって、自分よりも勉強をされている専門家の先生相手に、本の内容を”さも分かっている”ように営業をして売るのが情けない感じがしたんだわ。けっして相手を騙してるわけじゃないけども、どうしても駆け引きとかテクニックとか、営業をしているとそういう場面が出てくるんだね。

お話する義巳さん

「電話に出なくても済むように、事務員には『He is out(外出中です)』って言うように伝えておいた(笑)」

 

——言葉として嘘ではないけども、自分の心には嘘をついている感覚というか。

そう、それで当時は川口由一(日本の農家、自然農の実践者)さんの本を読んで感銘を受けていて、たまたま名古屋であった講演を聞きに行ったらすっかりはまってしまって!それで45歳の時に「よし、おれも自然農で食っていこう」と無謀な計画を立てた(笑)

100%、自分自身として生きる

——さすがの行動力です…!それで実際に農家に転身されたんですね。

まあ、やっぱり食っていけんかったけどね(笑)

でも生き方として、すごく落ち着いた。自分の100%で、自分自身として生きていける感覚やった。嘘を言わなくてもいいし、カッコつけなくてもいい。そこがいちばん楽だし、生き方として合っていると思ったね。

——ちょうど義巳さんが抱えていた違和感を解消する生き方だったんですね。

そう、それでアルバイトをしながら食いつないで10年目でようやく軌道に乗っていった。

なんでもそうやけどさ、若い時はやってみたらいいんだよ。「こうだ!」と思ったらとりあえずやってみる。やってみて失敗したらそれが勉強になるやん。

おれもほんとに失敗だらけやった。もちろん野菜を育てるのは今でも失敗することもあるけど、それでもとにかく自分が決めたことは毎日続ける。だからうまくいかなくてもとにかく畑に出続けた。

トマトを収穫する義巳さん

「自分が『偽り』だと思うほうにはぜったい行かない」

 

——結果どうこうではなく決めたことを続けることが大事、と。

とにかく何でも一生懸命にやればいい。与えられたものがあれば、不満を言わずに一生懸命やる。おかしなもんで、アルバイトをしてた頃はそっちのほうが儲かって、そのお金で東京にいる娘に仕送りした時期もあった(笑)

その生き方は仕事だけじゃなくて、自治会の役なんかでも同じやね。

——結果に左右されずに一生懸命続けたことが、回り回って結果にも繋がっていったんですね。それが『むらざと自然農園』で義巳さんが掲げている「あるがままに、天とともに生きるのぢゃ!」ということなんでしょうか。

嘘もごまかしもしないで、一生懸命に、正直に堂々と生きるということやね。その理念でどんな事業もやってる。「自分は誠実にやるんだ」って腹を括る。

まああんまり儲かってないけどね、でもそうやって頑張っていればなんとか食べていける(笑)まずはやってみることやわ、何でも。

——ありがとうございます。なんだかお話を聞いていると心が軽くなった気がします…!既にたくさんのことをされてきていますが、義巳さんがその理念の元に今後やっていきたいことはあるんでしょうか?

黒川野菜BOXの販売エリアをもう少し広げて、名古屋まで進出させたいな。それで、今よりもさらに地域おこしに貢献したい。

それが今の夢です。

畑にあるイスに座る、義巳さんの後姿

 

「自分に正直に生きる」

義巳さんが実践するその生き方は、多くの不安や恐怖を伴うものだと思います。

それでも軽快に、笑顔でお話してくれた義巳さん。その時間は、話を聞いた僕の心を軽くして、前に進めてくれるようなものでした。

 

【古田 義巳(ふるたよしみ) さん

屋号   :岩花

出身   :黒川地区

学校   :立命館大学 法学部

職歴  :本屋(学術洋書輸入販売)、自営業

趣味  :酒(笑)、野鳥の声を聴くこと

読んでくれている人に一言  :野菜BOXで、黒川の地域おこしをしていきたい。

 

取材年月:2024年7月 

【むらざと自然農園】

http://murazato.com/

オンラインストア→https://murazato.thebase.in/

  • 取材執筆/写真:

    澁谷尚樹

  • 監修:

    白川町役場企画課

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