縦向きにしてください

「一生懸命に働いて、一生懸命にダラダラする」

雇われたくなくて出会ったトマト農家で目指す『だれもができる畑』

名古屋市から白川町に移住し、トマト農家として活動する藤田実(ふじたみのる)さん。

『美濃白川夏秋トマト部会』に所属し、役員の佐伯薫さん(佐伯薫さんのヤゴー取材記事はこちら)からは「2023年のトマトの顔」と評されました。

 

「農業というよりは、一人親方がやりたかったんです」

 

働き方をきっかけに農家という道を選んだ藤田さん。その経緯や、白川町での生活についてお聞きしてきました。

 

目指すのは『だれもができる畑』

——藤田さんは昨年に畑を拡張し、数多くのトマトを出荷されているとお聞きしました。

ハウスを4棟から8棟に増やして、パートの方にも来てもらうようになりました。夏秋トマト農家は、夏はほんとに忙しいんです。

夏はげっそりになるぐらい働いて、冬は何もしないという生活です(笑)

トマトハウス内で作業中の様子

トマトハウスを案内してもらいました。屋外よりもさらに蒸し暑いハウス内。トマトは青いうちに採って出荷するそう(取材はまだ暑さの残る10月に行いました)

 

——げっそりですか…繁忙期にしっかり働いて、1年間の稼ぎをあげるということなんですね。

そうですね、その働き方が気に入ってます。

11月下旬ぐらいで出荷は終わるので、そこから1月ぐらいまでは体を動かすエクササイズ代わりに畑の片づけを1日2時間ぐらいやって、3月ぐらいまではゆっくり過ごします(笑)

繁忙期の月は270時間ぐらい働きますが…1年で考えると200日ぐらい働いて、160日ぐらいは休みという感じですね。

—–休み無しで考えても、その月は暑いなか毎日9時間労働ですか…!!たしかに向き不向きはありそうですが…メリハリがあり魅力的な働き方だと感じる人も多そうです。「今年のトマトの顔」と言われた藤田さんならではの、意識や取り組みってありますか?

私が畑に対して目標にしてるのは『だれもができる畑』ということです。

だれがやっても同じようにできる標準化したやり方なら、効率的に広い土地の面倒を見れるようになる。

今後人が減ってしまっても継続していけるように、機械ができるところは機械を導入したり、手間がかかる作業は敢えて辞めてしまうとか、そういうことも必要ですよね。

設備の説明をしてくれる藤田さん

倉庫内にある機械についても説明していただきました

 

——なるほど…だからこそ規模を拡大していけるんですね。

たとえばここでは、機械が感知する日照量が一定の値を超えると、自動的に肥料を混入した水がトマトに放水されることになっています。

農家さんによっては、その日のトマトの様子を観察して水や肥料をあげる方もいらっしゃいますよね。

——いろんな機械があるんですね…!同じ農業でも、目指す方向性によってまったく違うやり方になるというか。

なので、パートの方も作業を覚えやすいと思います。

自由に来たい時間に来てもらって、ホワイトボードに書いておいたやって欲しい作業をやってもらいます。休憩の時間がいっしょになればお茶をすることもありますし、まったく顔を合わせない日もありますね。

パートの方は白川の人で、信頼関係があるからこそできることですが(笑)

ハウス8棟分の、その日の作業が書かれるホワイトボード

ハウス8棟分の、その日の作業が書かれるホワイトボード。出勤時間等も、パートさんがホワイトボードに記入して帰宅するんだとか

 

——高齢化や人口減少による耕作放棄地も問題になっていますよね。標準化したやり方で規模を大きくするからこそ、解決できる問題もあるように思います。

そうなると良いですよね。ただもちろん、自然を相手にすることなので大変なことも多いです。

落ちたトマトを獣が食い散らかして、糞掃除から始まる朝もあります。トマトの値段相場は上げ下げが激しいので、たくさん収穫できたタイミングでも相場が低いとぜんぜん売上にならない時もあります。

『だれもができる畑』を目指すためには、現実を受け入れるということが必要だと思います。

トマトハウスでお話する藤田さん

その年の気候や、それぞれの人によって「明暗がはっきり分かれる」と藤田さん

 

「雇われたくない」から始まったトマト農家

——お話を聞いていると、藤田さんは農家というより経営者のような印象を受けます。

元々は、農業というよりは一人親方をやりたかったんです。だからこそ農業に対して、仕事としてドライな考え方をしている部分があると思います。

以前はずっと名古屋でサラリーマンをしてたんですけど、人間関係があまり上手くいかずに転職を繰り返していて。それで「もう雇われたくない」っていう気持ちになったんです。

——そうだったんですか。

仕事を辞めて名古屋のハローワークに行った時に、たまたま岐阜県のとある市町村の農業者募集の冊子が置いてあるのを見て、最初はそこに伺いました。

そしたら役場の課長さんとか4人ぐらいが時間を取ってくれて、農業者のところをいろいろ回らせていただいたんです。「こんなに歓迎されるんだ!もしかしたら農業良いのかも」って思いました(笑)

笑顔でお話する藤田さん

歓迎のされ方にビックリしたという藤田さん

 

——自分が求める一人親方にもなれるし、向こうからも歓迎されるというピッタリな環境ですよね!そこから移住先が白川町になったのは、なぜだったんでしょう?

岐阜県の農畜産公社*に農業について話を聞きに行ったら、たまたま白川町を紹介していただいたんです。

白川には研修生を受け入れて1年間農業を教えてくれる方がいたので、こっちに来ました。

*農業の生産性向上並びに経営の安定に対する支援、及び農業の啓発普及を推進する一般社団法人

 

——すごい偶然と勢いで今に至るんですね…!実際に就農されてみていかがでしたか?

やっぱり自由な今の働き方は合ってますね(笑)それに頑張ったらトマトの出来は良くなるし、やった分がぜんぶ自分に返ってくるのはシンプルで良いです。

あとは白川町には『トマト部会』っていう組織があるし、トマトについて教えてくれたり手伝ってくれたりもします。新しいハウスを建てた時は、近くの方が2ヶ月ぐらいずっと来てくださいました。

周りの方が手伝おうとしてくれる気持ちが、すごく有難いです。だからこそ私も何かあれば手伝いに行きます。持ちつ持たれつですよね。

藤田さんにハウスを案内してもらう取材陣

藤田さんにハウスを案内してもらう取材陣。秋晴れの気持ち良い日でした

 

一生懸命に働いて、一生懸命にダラダラする

——そういった「周りの人」の存在は大きいですよね。

そうですね。地域の人は移住者慣れしているので、良い距離感の関係を築けているなと思います。公民館の草刈りとか、そういったみんなで行う活動はみんなでする。個人で活動することにはあまり干渉しない。そんな今の距離感は居心地が良いです。

みんな元気がありますよね。チャレンジできる環境があるし、やろうと思えばなんでもできる。自由に過ごせる町だと思いますね。

——たしかに、最近だと移住者の方が新しい取り組みをされていることも多いですよね。藤田さんが今後チャレンジしていきたいことはありますか?

今後は土地の面倒を見切れない人も出てくると思うので、畑の条件が揃えばトマトの規模を大きくしていきたいです。

——人口が減るなかで、農地を拡大して取り組んでくれる人の存在は町としても心強いと思います。

人の繋がりから土地を紹介いただけることもありますし、有難いですよね。

これからも一生懸命働いて、冬場は一生懸命にダラダラしていきたいです(笑)

トマトハウスでの藤田さん

 

「農業に対して、高尚な考えがあるわけじゃありません。でもやっぱり、綺麗なトマトが採れたり、高く買い取ってくれる時期にたくさん収穫できたら嬉しいですよね」

 

小さな規模だからこそできることがあり、逆に大きな規模だからこそできることがある。

これまでたくさんの経験をして、自分と向き合ってきたからこそ選んだ生き方で、きっと藤田さんはこれからも白川の農業を盛り上げてくれるんだと思います。

 

【藤田実(ふじたみのる) さん

出身   :愛知県

学校  :愛知工業大学

職歴  :プログラマ、営業

趣味  :渓流釣り

読んでくれている人に一言  :次のお休みの日は白川町でドライブなんていかがですか?周りは山だらけ!看板や広告が一切目に入らない風景は都会では味わえません。

 

取材年月:2023年10月 

【美濃白川トマト部会】

パンフレット:https://www.pref.gifu.lg.jp/uploaded/attachment/113346.pdf

  • 取材執筆/写真:

    澁谷尚樹

  • 監修:

    白川町役場企画課・Anbai株式会社

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