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「バカモノでいたい!」

白川町の”農の可能性”を切り拓いてきたトマト農家さんの挑戦とは?!

今回は切井(蘇原地区)で佐伯農場を経営する佐伯薫さんにお話を伺いました!

佐伯薫さんは白川町で産出された麦飯石を利用して栽培した「佐伯さんちのむぎめしトマト」の栽培やゆうきハートネットの代表など、白川町の農業を切り開いてきました。

 

最初はトマトをやろうと思っていなかった

——薫さん、宜しくお願いします!
 早速ですが、佐伯農場さんについて教えてください!

ウチは夏から秋にかけてなる夏秋トマト農家です。4月から育苗し5月に植え付けて出荷が始まるのが6月下旬。トマトは1苗で13段くらいになるので11月まで収穫ができます。

——出荷できる期間が長いんですね!(知らんかった)佐伯さんはトマト農家を始めて何年くらいになるんですか?

だいたい30年やね。今は息子も一緒にやっていて、彼は9年目です。

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30年の年月で培われたトマトたち

 

——30年…(僕の一生とほぼ同じ年月…)そもそも農業を始めるきっかけは何だったんでしょうか?

農業高校を卒業してすぐ就農したかったんやけど、何をやっていいかわからなかったんです。そのうち地元の農協から声をかけてもらって農協で3年弱働きました。

でも、もともと自分で農業がやりたかったので「3年以上働いたら定年まで農協職員で過ごすことになる…」と思い1年半兵庫県へ農業研修に行きました。その後就農したんです。

——佐伯さんにも最初は何をしていいかわからなかった時期があったとは…意外です。

そうなんです。でも農協では営農指導に配属されたので、町内で農業をやっている人に会うことは多かったですね。その中の佐見の農家さんで『菊の切り花農家』さんもいて、色々話しを聞くなかで「俺のところでもできるかもしれない」と。

——え、最初は菊の栽培から始めたんですか?!

そう(笑)でも地域にノウハウがないから大変やったね~。

菊以外にも花屋やテレビなどに使われる変わり種の花を色々作っていたけど、バブルがはじけたらあっという間に花の業界はね、、、。1本400円が40円になった。

——10分の1じゃないですか!!それは厳しい…

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あの頃は大変やった

 

厳しかったねぇ…。ちょうどそのころ役場や農協で推奨作物としてトマトが補助事業になっていて「トマトを作ればハウスが負担なく作れるぞ」って知ったんです。

だから次にトマトを始めることにしました。元々家の近くに農業施設が欲しかったのもあって。

——まさかハウスがきっかけだったとは!菊からトマトへ、まったく違う物に切り替えたわけですが、特に大きな違いなどありましたか?

花を作っていたときは一匹狼でした。でも、トマトは地域にトマト部会があって、色々トマトのことを教えてもらいました。

普及員さんが定期的に回って、指導をしてくれるし、「ここがようわからん」っていうのを酒を飲みながらみんなが教えてくれる。

——めっちゃフレンドリーですね!なんか青春の雰囲気を感じます(笑)

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切井が一望できるお家の前で

 

同じ産地の共同体という意識が強いからかね~。今まで1人でやってきた分、団体の良さを感じました。最初の2年くらいはトマトと花もやっていたけど、トマトの方が出荷の時期が長いし、採算面も考えて切り替えることにしました。

——『地域のトマトを育てる』という感覚なんですね。それでも最初は大変だったと思いますが、そこからどういった流れで軌道にのせていったんでしょうか?

何人か熱心に思ってくれる人がいたらそれで良い

軌道に乗るまでかぁ…まぁモノになるまではまぁ大変やったね。台風がきたり、ハウスが雪で潰れたこともある。

でも、一生懸命育てたら「ありがとう」ってトマトから伝わってくるんです。『トマトを作ってる』って言うけど、実はトマトを作ってるのはトマトの木そのもの。農家はトマトを1番良い条件にして、トマトの木が実をつけるサポートをしているだけなんです。

——薫さんのトマトへの愛情が伝わってきます!

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愛情こめて…(取材時はオフシーズンだったのでお写真頂きました)

 

あと白川町は寒暖差があって、水も綺麗やからトマトには適してる。結果的にこの場所にぴったりの作物やったちゅうことやね。

——お茶と同じくトマトにとってもいい環境がそろっていたんですね。ちなみに、佐伯農場の『むぎめしトマト』はどうやって生まれたんですか?

トマトに付加価値をつけたかったんです。そこでまず「白川町に日本一はないか?」を考えました。麦飯石*(ばくはんせき)は日本で唯一白川町でしか採れなくて、「水を良くする」という点でトマトとの相性が良いものだったので「これだ!」と思いましたね

麦飯石:水を浄化してミネラル成分をとけ込ませる働きがあるため中国では『薬石』とも言われている石。日本では白川町黒川しか採れない。

——日本で白川町しかとれない石って、よくよく考えるとすごい。効用的にもこれ以上ない組み合わせですね!

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『むぎめしトマト』つくったトマトジュース。ふるさと納税でも買えます。

 

よく調べたら、当時宮崎で麦飯石を活用する研究会があって、麦飯石を利用している農業グループもあったんです。そこの人達から麦飯石の使い方を色々教えてもらいましたね。

——なるほど!実際に麦飯石で育てたトマトは違いましたか?

食べた人は「美味しい!」って言ってくれるけど、食べ比べないと違いがわからないかもしれません(笑)ただ、電子顕微鏡レベルで見ると組織がそろっていることが美味しさの理由と言われました。

——なんか生き物として進化してそうです(笑)

そうかもね(笑)あと麦飯石には色んなストーリーがあるんです。麦飯石が取れる地域では「ご飯が腐るというのを知らなかった」とか、麦飯石でつくったお酒はワンランク評価があがるとか。

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トマトジュースめっちゃ美味しかったなぁ

——麦飯石すごい…

花を作っているときに学んだんですが、万人受けするものを開発するのは大変。でも、何人か熱心に思ってくれる人がいたら良いんです。『美濃白川夏秋トマト*』の中の1つに麦飯石トマトを入れ込みたい。『むぎめしトマト』はその可能性があります。

美濃白川夏秋トマト:寒暖差のある白川町の環境でつくられるトマトのブランド・総称

——菊栽培のご経験がトマト栽培にもつながっているんですね!

あと薫さんは農家だけじゃなく、有機農業でまちづくりを目指す『ゆうきハートネット』の代表をされていますよね。どんな経緯で発足されたんですか?

流域自給という考え方

ゆうきハートネットができてもう20年なんやけど、実は最初は飲み会の口実として「有機農業」を話題にいれたことから始まったんです。ただ飲み会ばっかやっとったら、みんな女房に言いにくいってことで…(笑)

——まさかの、飲み会の口実(笑)でも、どうして「有機農業」を話題にしたんですか…?

町の農家と消費者グループとの交流で話題にあがったのがキッカケですね。

白川町の一部の地域では、以前から名古屋などの消費者グループとの交流があったんです。その中で『安心安全な有機農産物』について話があがり、それが勉強会の活動テーマになっていったんです。

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安心してください、ご家族のみなさんも聞いてます

 

——交流会が元々あったのも驚きですが、世間的に有機農業の理解が低かったなか、実際に意見を取り入れる真摯な姿勢がすごい…。それほど印象に残った交流があったんでしょうか?

いろんな話が出てきたのですが、消費者グループの代表者の方の『流域自給』という話が特に印象に残ってますね。

——流域自給、ですか…??

川の流域内での自給体制を作るという考え方です。

川上の農家が安心安全の野菜をつくって、川下にいる消費者のグループがそれを買い支える。川で繋がっている地域で、安心安全な農業をして買い支えることが自分たちの環境を守ることになります。

ーなるほど…!今だからこそ、より大事にしたい考え方のような気がします。

あと活動をするなかで名古屋のオアシス21のオーガニックの朝市に出店するようになったんですが、そういった場で出逢った移住希望者の方の相談も受けるようになりました。

今ではその移住者の方が地域にとけこんで色々面白いことを始めてますね。

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夜明け、ハウスが見える景色で

地域活性化のためには3つの『者』が必要不可欠

——確かに、白川町は移住者のみなさんが新しい取り組みをしているのが印象的です!それにはゆうきハートネットの存在が大きいんですね。

有機ってそもそも作るのが本当に大変。中々できないから付加価値を作って販売しないといけない。

通常なら農協が売ることはやってくれるけど、ゆうきハートネットでは、新規で入った人が、作るだけじゃなく売れるようなサポートもやっています。

——薫さんがトマトを始めた時のように一緒に相談できる人やサポートがあると心強いですね!

最近6次産業化という言葉が出てきましたが、農家が一次産業のことを考えていればよい時代は終わりました。ゆうきハートネットとしては不特定多数の方に売るのではなく、白川町のファンを作っていきたいです。

——生産者と消費者をつないで、関係を育んでいくような存在だ…!

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平成31年度農林水産祭 「豊かなむらづくり」部門 内閣総理大臣賞受賞の時

 

あと新しい人がかき混ぜてくれると「なんや!なんや!」と言いながらも変わってくるのが良い。今ではそういった人が始めた民宿や農家レストラン、サウナなども盛り上がり始めてますね。

——新しい事を初めている方は、町内では農業をやっていらっしゃる方が多い印象です。そういった方と地域の方の連携があって初めて地域活性化につながる気がします。

地域活性化のためには「よそ者、若者、馬鹿者」が大事と言われます。否定ばっかりだと何も始まらない。俺はそんなバカモノでいたいなと。

——「バカものでいたい」って私も言えるようになりたいです…!薫さんが描く未来図みたいなのがあったら是非お聞きしたいです!

地名「切井」に込められた開拓心をもう1度

トマト農家は体力が続く限り、続けたいけど、経営は息子をメインにしていきます。あと、農業だけにこだわらず、冬場の補完作物を考えています。例えばメープルシロップとか。

——メープルシロップ!また全然違う作物のイメージが…!

シロップは木を使うから山の有効活用にもつながるんです。シロップ以外にも息子の世代の仕事の種まきや環境を作っていきたい。でも実際にどうするかは息子世代に任せます。

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すでに就農9年目!息子の悠太さん

 

——かっこいい…!あと、新たに民泊の許可も申請中とお聞きしましたが…

そうそう、農泊があってもいいかなって考えています。1泊2日で家内と味噌作りをしたり、木の工芸品をつくったり、草刈り体験などなどです。あと関係人口を少しでも増やせるようなことをしたい!

あと俺の頭の中にあるものがあって・・・。

——おぉぉぉ!なんでしょう?!

春祭りで奉納する杵振り踊り(きねふりおどり)の踊り子を育てたい。これだけ子供の数が減ってるし、「切井のことを切井だけで守る」という考えは捨てたらいいと思っています。

——きっと状況的には他の自治会も同じですよね…

外からも歴史や文化に興味がある人を招いて、冬の間に杵振り踊りを覚えてもらう。このまま昭和2年から始まった文化が廃れるのは残念やしね。

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毎年恒例の蘇原小学校2年生の子達の見学(今はコロナで休止中)

 

——地域の祭りってつながりがないと参加できないし、文化を肌で感じる貴重な機会だと思います!祭りをキッカケに切井にも新しい人が来てくれると盛り上がりそうですね。

そうですね。あと切井の地名と開墾の起源も面白い。祖先が定住の地を求めてたどり着いたのが山の上にある『ヒキョウの根』というところなんですが、そこから矢を放ち、矢がささった所を定住の地として決めたという逸話があります。

——日本創世記みたいな話…!(なんだかすごく縁起の良い土地に感じてきた…)

切井の人たちは中野方側から山を『切り入った』から『切井』という説があります。あと、矢がささったところを『矢佐』というのですが、そこから山を切り開いていったのかもしれません。

——そのストーリーを聞くと『切井』という地名が、また違った印象に感じます。

その時の開拓心を思い出して、もう1度地域に切り開く「矢佐プロジェクト」を立ち上げたいですね。

おもしろそう!これからも色んな挑戦をされていくんですね。薫さんから開拓者精神を学びました。ありがとうございました!

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お家の前、切井が見張らせる場所。お二人で

 

取材年月:2022年3月※記事中の年月は取材当時のもの

【佐伯農場】
〒509-1111 岐阜県加茂郡白川町切井2678
☎︎ 0574-73-1683

Instagram:https://www.instagram.com/saeki_nojo/

 

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