佐見地区で建築業を行う『初喜(はつき)建築』
そこで現場のリーダーとして働くのが安江賢太(やすえけんた)さん。父親が友人とはじめた会社に、高校卒業と同時に大工として入りました。
学生時代の夏休みの工作は「家族総出で取り組む」という大工一家。
そんな賢太さんは仕事だけでなく地域での活動にも積極的に関わり、人と人のつなぎ目のような存在です。
夏休みの工作がつくる『大工への道』
——賢太さん、よろしくお願いします!『初喜建築』さんでは、賢太さんのお父さんが棟梁として、そして息子さんも含め親子3代で働かれているんですよね。
小さい頃から親を見てたから、気づけば大工になる気になっとったね。
学校の夏休みの工作は親父に手伝ってもらって棚とか引き出しを作ったり、そうこうしてるうちに気づけばおれも息子も大工っていうレールの上に乗っとった(笑)
——まさに幼少期からの英才教育ですね(笑)
「これお前の作品じゃなくて親父さんの作品やろ!」って学校のみんなに言われたこともあったね(笑)
–—–「親に手伝ってもらった」というより「プロに手伝ってもらった」クオリティになっていたんですね!
そうやね(笑)
おれも親父も、自分の息子に「大工になれ」なんてはっきり言ったことはない。でもいろんな道具を借りてみて、自分の欲しいものが作れると「これすげえ!」って興味が湧いてくる。それで「次は何を作ろう?」って自分のやりたいことになっていくんやろうね。
——実際に体験することで、肌で楽しさを感じていたんですね。
そういう経験もあったから、今の仕事をして佐見地区で生きていくっていうのはほんとに自然に決まった。佐見が好きやし、悩むこともなかった。
——息子さんたちも同じ気持ちだったんでしょうか?
自分の長男には「町外で何年か修行してきたら?」って言ったんよ。でも「そしたら佐見に帰ってこなくなるかもしれないから」って最初からうちで働くことを選んだ。
長男にとっての「うちの会社を継ぐ」っていう覚悟があったんやろうね。
今建築科の高校に通ってる次男も「おじいちゃんとお父さんとお兄ちゃんと一緒にやりたい」って言ってくれてるね。
——大好きな佐見で大好きな家業を守るというのが、賢太さんや息子さんが選んだ道だったんですね。
『2割の不安』と向き合うことが面白い
——実際に働いてみてからはいかがでしたか?
社会人になってから消防団や商工会にも入って、いろんな人との繋がりが増えた。町で会ったら声をかけてくれたり何かあったら助けてくれる。そういうのは嬉しい。
——地元に根を張って働くことで、これまでよりも多くの繋がりが生まれたんですね。大工のお仕事はどうですか?
面白いね。解体とかリフォームには同じものが1つもなくて、正解が無い。それを自分なりに考えながらやっていくのは、難しいけど面白い。
「こんな古い家をやってもらって悪いね」って言うお客さんもいるけど、いやいや面白いから大丈夫やでって思うよ。
——新しく建てるのとリフォームするのとでは、まったく違うんですね!
大工を始めてから30年が経つけど、リフォームは未だに分からんこともあるし不安になる。
もちろん8割は自信。でも残りの2割は不安で、それはどれだけやっても埋まらんかもしれん。
——不安があるからこそ、目の前の仕事と向き合う面白さが生まれるんですね!僕も仕事で不安になることがあるので、その言葉にすごく勇気づけられます。
試行錯誤しながらやって「良かった、今回もできた…!」って思う。
数年前にリフォームで家のなかに茶室をつくったことがあって、それは大変やった。3ヶ月ぐらいかけて、毎日茶室のことばっかり考えてた。
——茶室ですか!たしかにあまりないリフォームですよね。
まったくやったことがない仕事で、とにかく情報を調べたり近くにある茶室を何回も見に行った。
それでもなかなか作業が進まんくて、別の部屋のリフォームをしてる大工に「賢太は今日1日何したよ?これだけか!?」って言われたりしながら毎日やっとった(笑)
——1つ1つの作業にとても神経を使う作業だったんですね…
冬場の作業で、家に帰ると熱い焼酎を飲むんやけど、焼酎を持ったままぼーっとして手が止まってしまう。
嫁が「また茶室モードになってる!帰って来た時ぐらい茶室のこと頭から外しなさい!」って(笑)
——茶室モード!(笑)まさに不安と向き合う、試行錯誤の日々です。
できたときの達成感と安心感はすごかったね!
大工になった当時の長男にその茶室を見せたんやけど「どうなってるかまったく分からん!」って言っとった。
——賢太さんのこれまでの経験が総動員されたお仕事だったんですね!
『地元で仕事をもらう』ことが何よりの喜び
——賢太さんはお仕事だけでなく、佐見小学校のPTA会長やスポーツリンク白川*の理事など、地域でたくさんの役割を担っています。
*町内のスポーツ施設の管理や、競技スポーツ・生涯スポーツの推進、町内イベント企画などを行う一般社団法人。以前ヤゴーシラカワでは事務局員の渡辺靖代さんを取材(https://yeahgoshirakawa.com/article/642/)
白川で仕事を貰ってるし、白川のために今の自分ができることはやろうっていう気持ちでいる。やってみないと、それが自分のできることかどうかも分からんから。
それに繋がりが増えるのは嬉しいし、楽しいよ。PTA会長をすれば新しい知り合いができたり、学校の先生たちとの関わりも増える。
–—–きっとそういった気持ちの賢太さんを、みなさんが信頼しているんですね。
おれも頼まれるとやってあげようって気持ちになるから、周りのみんなも「とりあえず賢太に頼めば大丈夫」って思ってる(笑)
——周りの方にとっては、いつでも頼ることができるとてもありがたい存在だと思います。
付き合いができると、町で会った時に話せる。それが嬉しい。
——地元での日常が、より豊かになっていきますよね。
ここ15年ぐらい佐見でフットサルをやってる。小学生に教えたり、大人が集まってみんなで試合をしたりね。
小学生の時に指導した、今は町外に住んでる子がこの前大人のフットサルに遊びに来てくれたんやわ。
——それは嬉しい…!
楽しそうにやってるから「また来いよ!」って言ったら、また来るって言ってくれる。
教えてた子は、みんなおれより上手くなっとるわ(笑)
大人のフットサルはそうやって性別も年齢も関係なくたくさんの人が来て、みんなが楽しそうにやってくれるのが嬉しいね。
——既にたくさんの活動をされている賢太さんですが、今後やっていきたいことなどはありますか?
まずはできるだけ地域の現状を維持していきたい。
子どもの人数も少なくなってきて、佐見地区の子どもだけではフットサルを教えるのも難しくなってきた。そんな時に別の地区の子どもたちが来てくれるようになって「あぁ、なんとかおれのフットサル寿命も延びたな」って(笑)
——きっと賢太さんだからこそ人が集まってくるんだと思います。
仕事でも、ありがたいことにほとんどが町内の依頼なんよね。
そうやって地元で仕事をもらえるのは大工をやっていて何よりも嬉しいし、これからも地元の繋がりを大事にしていきたいね。
「この間は、作業している現場近くのおばあさんに「床から音がするから怖い」って相談されたんよ。15分ぐらいで修理して、タダにすると気を遣われるから「1000円でいいよ」って。
現場に来るついでの作業やし、そうやって呼んでもらえるのは嬉しいからね」
そう笑顔で語る賢太さんの、柔らかい口調、安心感のある雰囲気とご自身にできることを積み重ねてきたこれまでの行動。
みなさんが賢太さんを頼る理由が分かったような気がします。
賢太さん、ありがとうございました!
【安江賢太(やすえけんた) さん】
屋号 :小田(こだ)
出身 :佐見地区
学校 :岐阜県立可児工業高等学校
職歴 :大工(初喜建築)
趣味 :スポーツ全般、テンカラ釣り
読んでくれている人に一言 :出会ったら声をかけてください!
取材年月:2023年07月