2025年11月、白川町でスマホの相談窓口『スマラボ(スマートラボ)』を開業した吉川敦子(あつこ)さん。子どもの頃から「あちこち出歩いてよく行方不明になっていた(笑)」という理由で、お父さんから付けられたあだ名“あちこ”の愛称で親しまれています。
多治見市出身で、実家は8代続く窯元。高校を3か月で中退し、世界を旅することで出会った”火”を通して、火を使った踊り『火の舞』や小学生への『火おこし講座』なども行っています。
「その時の自分が良いと思って信じていることは、曲げない」
と語るあちこさん。あちこち動き、経験してきたその人生の一端をお聞きしてきました。
近所の人の困りごとから始まった『スマホの相談窓口』
——開業から連日たくさんのお客さんが来られていますが…そもそもどういった経緯でスマホの相談窓口をオープンされたんですか?
私、もともとはすごい機械音痴でアナログだったんです(笑)
でも近所の高齢の方からスマホのことで「どうしたらいい?」って聞かれたのがきっかけで、自分で調べて教えているうちに「これはほんとにみんな困ってるんだな」って思うようになりました。

「町内にはキャリアショップがないし、行くのに1時間近くかかる。予約も必要で1日仕事になることもあるし、ショップ嫌いになっちゃう人も多くて…」
——白川町は高齢者も多いですし、きっと困っている人は多いですよね。
デジタル化が進む時代に、こういう山間の集落でスマホがぜんぜん使えなかったらすごく不便な暮らしになっちゃうと思って。それで私も教えるために勉強を始めたら、町内でもスマホ教室をやらせてもらうようになったんです。
私が苦手だったからこそ、みなさんの気持ちがよくわかるので、わかりやすい言葉で丁寧にお伝えすることを心がけてます。
——近所の人の困りごとに応えているうちに、その専門家になっていった、と。
やっぱり目の前の人の困りごとを解決することができたら、すごく喜んでもらえるし、私も嬉しい。やりがいを感じてます!
単発のスマホ教室だと困った時に頼れる場所がないから、いつでも相談できる店舗をつくる必要性を感じました。そしたら生徒さんも地域の方もすごく応援してくださって!
白川の良い地域性で、新しいことを始めようとする時にみんなが手伝ってくれたり、歓迎してくれたりする。そういう温かさを感じながら、自分がこの場所を実現できたっていうことはすごく感動的でした。本当にみなさんのおかげですね!

お店の開業時の様子。「オープンの日はありがたいことにお祝いの花だらけで、お花屋さんみたいでしたね(笑)」と振り返ります(写真:ご本人提供)
2年間の放浪生活でたどり着いた白川町
–——あちこさんは、移住して白川町に来られたんですよね?
そうです、2010年にいちばん上の娘が2歳の時に移住してきました。その前は東京にいたんですけど、子育ては東京ではできないと思って。子育てをする土地を探すために日本中を2年間くらい放浪していました。
——え!?
家族3人で、軽バンに家財道具積んでキャンプしながら(笑)

ご家族で「自然のなかで生活できる」いろんな場所を回ったと言います(写真:ご本人提供)
——豪快ですね…
私の多治見の在所(「実家」の意味)は陶芸家の家で、代々当主が作品を焼く”穴窯”があって、その穴窯にくべる薪は切井(きりい:蘇原地区の地名)の山からきてるんです。旦那が山仕事に興味を持ってたのもあって「じゃあその山を手入れしてみよう」と思って初めて白川町に来ました。
それで来た時に「なんて綺麗な良い町なんだ!」って感動しちゃったんです!(笑)自然が豊かで、みんなきちんとお庭とか田んぼを手入れして、丁寧に暮らしているなって感じました。こういうところで大地に根を張って暮らしながら子育てしたいなって。
当時は空き家バンクがなかったから、とりあえず切井の山の中にテントを張って1週間暮らしながら歩いて回りましたね。
——それは…怪しまれませんでしたか?(笑)
そうかもしれない(笑)
畑仕事してるおじいちゃんとかに「移住したいんだけど空き家ないですか?」みたいな感じで聞いて回って(笑)それで在所とご縁のあった切井の茶工場を見学させてもらって、紹介していただき切井に家を見つけました。
子どもを育てるにあたってこんなに素晴らしい環境はないなと思いましたね!みんな地域の子どもを大事にしてくださるし、自然のなかで暮らしながらたくましく感性豊かに育って欲しかったから。

切井在住時のあちこさんのお子さんの様子(写真:ご本人提供)
16歳で飛び出した世界で感じたこと
——あちこさんがどういった環境で育ってきたのかすごく気になります。
うちの在所は中学から外に出すっていう方針だったから、多治見にいたのは小学校いっぱいで、親元を離れて関東の中学に行きました。高校は美術をしたくて東京の学校に行ったんだけど、美術の先生と折が合わず3か月で辞めちゃった(笑)
——これまでのお話に納得する経歴です…(笑)
そこから自分でバイトしてお金を貯めて、16歳の時に「日本は狭い!海外行こう!」って(笑)うちのお父さんとかおじいちゃんが、陶芸のルーツを研究するためにシルクロードを旅してた時期があるんです。その写真を小さい頃からずっと見てたし、海外に自然と興味が湧きました。
——すごい、16歳でですか。ご両親や周りからの反対もあったと思います。
まあ、みんな私のことを「頑固だ」って諦めてる(笑)
いつも自分が本当はどうしたいかっていう直感と本音で最終的に決める。その時の自分が良いと思って信じていることは一度決めたら曲げないんです(笑)
もちろん月日が経って経験を重ねて「あの時は無茶だったな」って思うこともありますけどね。

海外に行くとお父さんに伝えると「インドだけは行くなよ」と言われたと振り返るあちこさん。「『分かった!』って言って速攻でインド行きのチケットを買いに走った(笑)『行くな』って言われたら逆に興味が沸いた」
——そこから実際に海外に。
10代はずっと旅してました。東南アジアをヒッチハイクで移動して、気に入った土地で何ヶ月か暮らして。子どもたちと仲良くなって現地の言葉を教えてもらうと、片言でも通じ合えました。
インドとかで靴もなくて服もボロボロの子どもたちでも、瞳がキラキラですごく素敵な笑顔なんです。そういう子たちが家に招いておもてなしをしてくれたり…お金も、地位も名誉もなくても、本当に豊かに力強く生きてる人たちがいっぱいるっていうのを見てきました。
——あちこさんは火を使った踊り(火の舞)をしたり、小学生に『火おこし』の授業をしているんですよね。そういった経験も関係しているんでしょうか?
18歳の時にインドで火の舞に出会いました。陶芸家の娘だから火は小さい頃から見て大好きだった。火と一体に踊る姿を見て「これだ!」って、魂が震えたのを覚えてます。

出産を機に「火を大切に扱いたいなと思って…踊りのテイストや込める想いも変わってきた」と振り返ります(写真:ご本人提供)
——今でも続けるほど惹きつけるものって、なんなんでしょう。
もう30年弱やってますね。人と火って、共にあるものだし絶対切り離せないものだと思うんです。生きるのに根源的な部分というか。出産の時は身体が燃えるように熱くて「火は命なんだ」ってすごく実感しました。それは世界中で共通していて、いろんな国や地域で火を命として大切に扱ったり、神様が宿るものだとしてる。日本でも昔から囲炉裏を囲んで家族が輪になったり、今でも神社で火を焚いたり、左義長(どんど焼き)をやったりしますよね。
火って沢山の豊かさもくれるけど、今は戦争とか森林破壊に使われることもあって、命や自然を傷つける強いエネルギーでもある。踊りや火おこしの授業を通して、感謝を持って丁寧に火を扱う心を伝えたいんです。便利な時代だからこそ、人と火の繋がりをまた取り戻すことが大切だと感じてます。特に子どもたちへ、体験を通して学び、たくましく生きる力を育てたいと思っています。

今も毎年、町内外の小学校に火おこしの授業を行っています(写真:ご本人提供)
『地域の担当者』として、暮らしを豊かにする
——今はスマホというデジタルなものを対象にチャレンジされていますよね?火との関わりや自然豊かな土地での暮らしと、スマホの活動、共通して大事にされてることってありますか?
なんだろう…どちらも「暮らしを豊かにする」ってことなのかな。
スマホの相談窓口は私が移住して16年、大好きな白川町への恩返しだと思ってます。ここで暮らすなかで本当に助けてもらって、学ばせてもらって、人との関わりがすごく深い場所だから、人のお役に立てるような、町が活性化して豊かな暮らしに繋がることを提案していきたい。そしてだれも時代に取り残されないようにお手伝いしたいと考えてます。

スマラボ店内の様子。「スマホに関してだけじゃなくて、近所のママ会でも、子どもたちの学童でも、いろんな人が気軽に集まれる場所に育てていけたら」
——『スマラボ』での今後の目標はありますか?
地域のみなさんと信頼関係を築いて、長くお付き合いできる『スマホの地域の担当者』を目指してます。困った時にいつでも頼れる所があるから安心・安全に楽しくスマホを使えると思っていただけるような。
みんなが気軽にここに寄り合って、いろんなお話をして「やっとかめ(「久しぶり」という意の方言)だね」みたいな(笑)
そういう広い間口で、いつでも寄ってもらえる場所にしていきたいです。
——個人的に、便利さと自然的なことのバランスを取るのって難しいなと思うんです。たとえばネットですぐに物が買えるようになると、田畑を耕すのが面倒になったり。あちこさんはそういうこととどう向き合っているかお聞きしたいです。
私も最近は忙しくてスマホばっかり触ってて、田んぼとか畑はできてないです(笑)
でもここで暮らしてるだけで空と山に囲まれて、本当に日常のちょっとしたところですごく癒される。
春夏秋冬みたいに自然にはリズムがあって、そのリズムに沿って暮らすと心地良いし感謝の気持ちが生まれてくる。自然にとっては人間はまったく小さい存在。だから謙虚に「自然のなかで生かしてもらっている」っていう姿勢が大事だと思うし、白川はそういう暮らしができる場所だと思います。

火は「生きるのに根源的なもの」と表現したあちこさん。
「根源的」と言うからには、火(や自然)が人にとっての土台であり、その上にスマホやデジタルがあるんでしょうか。それともどちらも並列に位置して、人にとっては同じように大事なものなんでしょうか。自分にとっての「暮らしの豊かさ」とはどういうものなんでしょうか。
あちこさんが世界を見て感じたであろうことの一端に、頭をぐるぐるとさせています。取材の時もっと聞けたことなのかもしれないし、それは聞けなかったからこそ考えらえることなのかもしれません。
【吉川 敦子(よしかわあつこ)さん】
出身 :岐阜県多治見市
職歴 :スマホ相談窓口「スマートラボ」開業、てまひまの店
趣味 :人と関わりを大切にすること、学び続けること、チャレンジすること
読んでいる人に一言 :スマホのことは何でもお気軽にご相談くださいね!皆さんに寄り添ってサポートさせていただきます。
取材年月:2026年3月
※記事の内容は取材当時のものです。

