縦向きにしてください

「自分の気持ちに素直になる」

野山のお花屋さんが、直感を信じてつくる『里山での暮らし』

黒川地区で、野山の花屋『道草Sunpo』*を運営する児嶋陽子(こじまようこ)さん。種から育てた草花を扱い、着色したものや接着剤を一切使わない。そんな黒川の自然が詰まったリースやブーケを束ねています。

ご主人の健さんと、有機農家になるべく移住して約11年。

「暮らしも仕事も、ぜんぶが面白くて、ぜんぶが繋がっている!」と語るその生き方は、農家や花屋という枠組みを越えて、自身の直感をなにより大事にするものとなっています。

陽子さんはどんな想いを持ち、どうやってそれを形にしているのか。『農家に留まらない生き方』の奥にあるものに触れたくて、お話を伺ってきました。

 

*Sunpo(サンポ):児嶋さんご夫婦が、里山をフィールドに始めた屋号。

黒川で育てた農作物を販売する『暮らすファームSunpo』や、野山の花屋である『道草Sunpo』、シャワークライミングや農体験など里山での遊びを提供する『Sunpo Activity』がある。

 

一冊の本が、生業を作る

——『Sunpo』さんではたくさんの事業をされています。まずは陽子さんのお仕事について教えていただけますか?

私は草花の部門である『道草Sunpo』を担当していて、他の部門では健くんのサポートをしています。

事業は広がっていますが『自分たちが楽しみ、子供たちにその背中を見せること』、『自然を守り、里山の素晴らしさを発信すること』という軸を大事にしていますね。

——お花には移住する前から興味があったんでしょうか?

自然やお花は好きだったけど、仕事にしようとまでは考えていなかったです。

——そこから『道草Sunpo』を立ち上げるのは、何がきっかけだったんでしょう?

お花が好きだから、この花の本をたまたま図書館で手に取ったんです。それを読んだら、もう感動して、鳥肌が立って!健くんに見せたんです。「すっごい綺麗だよ!」って。

そうしたら彼が「自分で作ってみたら?」って。

栗城 三起子 著 『かわきばな 瑞々しいドライフラワー』

栗城 三起子 著 『かわきばな 瑞々しいドライフラワー』

 

——そう言ってくれると、背中を押してもらえる気がしますね!

うちは健くんがアイデアを出す人、私がアクセルを踏む人、という感じで。ブレーキがないんです(笑)止める人がいないから「やっちゃえ!」ってなりますね。

——良い相乗効果が生まれているんですね。

すぐに著者の栗城さんに連絡をしたら、大阪で個人レッスンを受けさせてもらえることになりました。生後半年ぐらいの長女を背負って通いましたね。

オンラインレッスン含めて1年間受講して、プロコースというものを修了して。満を持して『道草Sunpo』を立ち上げました。

——すごい行動力です…立ち上げてからはいかがでしたか?

マルシェで販売してみたら、お客さんに喜んでもらえたんです。それが嬉しくて「もっと勉強してもっと綺麗なものをつくりたい!」と思うようになりました。

だんだんオーダーも増えていって、少しずつ仕事として積み重ねていきました。

児嶋陽子さんが作ったドライフラワー

採取した後でも、まるで生きているよう

 

——身近な反応がもらえると、どんどん楽しくなりますね。

そう、もうぜんぶが楽しくて。山に草花を採りに行くのも、束ねるのも、そのあとだんだん色が抜けて乾いていくのも。

水分が抜けて乾いていく時って、花が動くんですよ。それを何度も何度も眺める。

 

奥が深いんです。私もまだまだ勉強中ですね。

 

自分の気持ちに素直になることでたどり着いた『白川町』

——移住後は健さんと、有機野菜農園の『暮らすファームSunpo』をオープンしています。移住前から農家になりたかったんでしょうか?

いえ、最初は有機野菜や自然素材の雑貨を取り扱うお店を立ち上げたかったんです。

お話する児嶋陽子さん

会社勤めの頃は、毎週のように山や川に遊びに行っていたそう

 

——移住前は名古屋で働かれていた、とお聞きしました。

名古屋で仕事していた時はもう寝る間もないぐらいで、一生分働いたって感じでした。当時もすごい楽しかったんですけどね!

 

長男を出産する二週間前に、東日本大震災があって。それが衝撃で、暮らしを変えようと思うきっかけになりました。

結婚する前から健くんと、週末は山や川に行ったり、農家さんのお手伝いをしていて。自然や食への興味が強かったんです。

——食品の放射能汚染など、大きな問題になりましたね。

子どもができて、家族を守っていかないといけない。食べ物も自分で選んで、家族に与えていかないといけない。

当時からオーガニック食には興味があったので、震災直後は冷静に考えられず「オーガニックじゃないとダメだ!」みたいに自分の視野がすごい狭くなっていました。今思うと、そのおかげでこんな空気の綺麗な場所に来ることができたのかもしれないですね。

 

あとは、もっと自分の気持ちに素直になろうって思いました。やりたいことをやってないと、人生終わっちゃうと思って。今も『ビビってきたこと』は必ずやるようにしています。

お話してくれる児嶋ご夫婦

「やりたいことしかやらないって決めたから、それを仕事にしていくしかないよね」と健さん

 

——そこからどう白川町にたどり着いたんでしょう。

名古屋にいた当時は健くんが退職を考えていたので、退職を機にふたりで有機野菜を扱うお店を立ち上げたいと思ったんです。セレクトショップのようなお店を都心部で開くことをイメージしていました。

そのために東京の起業セミナーに行ったり、あとはいろんなテナントや有機農家さんも回りましたね。

——地域に移住するつもりではなかったんですね。

そうです。その過程で偶然、白川町の佐見地区で『GOEN農場』をされている服部圭子さんにお会いして。「まずは自分たちで野菜作ったら?」って言われたんです。

「あ、なるほど!」って思いました。そこから名古屋の新規就農ブースで白川町を勧めてもらって、どんどん話が進んでいきましたね。

 

一日も欠かさず、日記を書き続ける理由

——お話を聞いていると、陽子さんは周りの方の言葉や環境を、何度も『自分のきっかけ』に変えて人生を前に進めているなという印象を受けました。

自分の気持ちをいつも言語化しているからだと思います。言語化を繰り返して、直感が来るまでは考えるというか。

——直感が来るまで考える…

私、小学生の時から一日も欠かさず日記を書いているんですよ。考えたことや自分の気持ちを書いてアウトプットして、言語化するのってすごく大事だと思います。

何か自分にとってビビって来ることがあった時に「あ、あの時書いたやつだ!やっぱり自分が書いた考えや気持ちって間違ってないんだ!」ってなるんです。それが直感かな。

ノートをお手元に置いた児嶋陽子さん

お手元にはいつでもメモできるようにノートが

 

——小学生から毎日!言語化することで、自分の気持ちを裏付ける出来事が起こった時に、それを逃さないようにしているんですね。

そうですね。自分の気持ちを人に話すよりも、書いて発散したいタイプなので。

——そうやって考えるなかでも、迷いが大きかった決断などはありますか?

えー…無い?なんだろう。

——無い!?これだけたくさんの行動をされているのに…

あ、でも!野菜便を辞める時は苦渋の決断でした。

——野菜便というと、個人のお宅に宅配されていたんですか?

そうです。でも特に有機野菜って、その年によってうまくできるか分からないんです。収穫しようと掘ってみたらすごく小さいことだってあるし。

楽しみに予約してくれる人がいるのに、ちゃんとお届けできるのかがプレッシャーだったんです。

お話してくれる児嶋陽子さん

ワークショップや講演など、人前に立つ前日は寝れなくなるほど緊張することもあるんだとか

 

——待っていてくれる人がいるから、余計に感じるところがありますね。

多品目の野菜をきちんとそろえることに集中し過ぎて、野菜づくりを心から楽しめなくなっていました。

自分たちが心から楽しめることを生業にして「絶対に喜んでもらえる!」という自信をもって提供したい。『Sunpo』の軸でもあるその想いが強くて、辞める決断をしました。

——農家として移住されたこともあり、難しい決断ですよね。

たしかに、当時の生活の主軸でもありました。それでもやっぱり軸はブラさずに事業を続けていきたい。

その後は『Sunpo Activity』を立ち上げました。里山の自然に囲まれたフィールドで、源流の沢登りや農体験を提供しています。

 

もっと面白いことをするために

——自分たち自身と向き合い続けたことで、野菜やお花からどんどん活動が広がっていったんですね。

直感を信じてコツコツ続けていたら、いろんなものがパズルみたいにはまっていきましたね。

あとはやっぱり、周りの人の存在が大きいです。黒川の人たちがすごく移住者に優しくて、背中を押してくれるんですよ。「面白いことやってるね!」って言ってくれて。

児嶋さんご夫婦と、Sunpo従業員の吉田さん

取材をしていると、健さんとSunpo従業員の吉田さんが集まってきました。みんなの仲の良さが伝わります

 

——そうやって背中を押してもらえると、陽子さんはまたアクセルを踏める…

そうそう(笑)

イベントをしても町内外から来てくれる人がたくさんいて、色んな人が関わってくれていますね。

—-以前ぼくも『醤油しぼりのワークショップ』にお邪魔しました。大人も子どももたくさんの方が集まっていましたね!

自分たちが楽しむためのイベントですけど、それを通して子どもたちにも広い世界を見せてあげたいです。

保育園から中学校まで、同級生はたったの10人。それはもう友だちというよりは兄弟、家族です。友だちは外にもどんどん作って欲しいし、この世界にはいろんな人がいるということを知って欲しい。

だからこそイベントを通していろんな人に来てもらいたいです。そんな想いもあって、イベントが年々増えてきましたね。

『醤油しぼりワークショップ』の様子

2023年2月に行ったイベント『醤油しぼりワークショップ』

 

——お子さんたちへの想いが次の仕事に繋がっていくんですね。

子どもたちの未来への投資と信じてやっています。

好きか嫌いかは自分たちで決めたらいいけど、好奇心は育んであげたいです。好奇心があればどこでも生きていけると思います。

それは周りの子どもたちに対しても同じ気持ちですね。

——『Sunpo Activity』や、他にもキッズキャンプなども開催されています。子どもたちが楽しめるイベントもたくさんですよね!

今は、夏の夜にライトで虫を集める『ライトトラップ』っていうのをやりたいんですよ!この土地だからこその、触覚とか嗅覚に残る体験を作ってあげたいです。そうやって自然に触れて成長する子どもたちが増えていくと、私たちがここに住んで色んなことやっている意味があるなって思います。

イベント時、子供たちが遊ぶ様子

イベント時、空いたスペースで遊ぶ子どもたち。これも大切な体験

 

——陽子さんたちの楽しいことが、どんどん地域を巻き込んでいっているんですね。

地域に貢献して、地域で頑張りたいと思っています。

これまでは、「自分たちの力で頑張る」っていう気持ちだったんです。でも、そうやって個人で頑張っている人はたくさんいます。それなら、みんな一緒になって頑張ったほうがもっと楽しいことができて、もっと町が面白くなる!

今は仲間がたくさんいるので、なんでもできる気がしています。

お店である『SunpoHygge』の看板

不定期オープンのお店『SunpoHygge』リースやお花、農作物や雑貨などが並ぶ

 

楽しいことやしてみたいことは、いたるところに落ちています。

自分自身の声を聞き、直感を信じ、自分たちの『軸』を大切に見つめる。そうやって落ちているものを丁寧に拾い前に進んでいく陽子さんの周りは、これからもっと面白くなっていくんだと思います。

 

ぼくが今やってみたいことは、何だろう。

話を聞き終わると、陽子さんの言葉の一つ一つがぼくの背中をそっと押してくれている。そんな気持ちになりました。

 

児嶋陽子(こじまようこ) さん

出身   :岐阜県瑞穂市

学校   :岐阜北高等学校・関西大学社会学部

職歴  :広告代理店のディレクター、岐阜の情報誌での誌面編集、通販会社でのコピーライターなど

趣味  :読書、ランニング、生き物の観察

読んでくれている人に一言:ぜひ私たちのフィールドに遊びにきてください。

 

取材年月:2023年03月 

【Sunpo】

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  • 取材執筆:

    澁谷尚樹

  • 写真:

    服部健人

     

  • 監修:

    白川町役場企画課・Anbai株式会社

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