縦向きにしてください

「木を高く売りたい」

町の木材が一挙にあつまる木材市場課長の『山と人との向き合い方』

町内の森林所有者(売り手)と製材建築業者(買い手)を仲介し、木材生産と流通を担う『東濃ヒノキ白川市場協同組合』。 昭和59年に発足し、山が9割を占める白川町の林業や、桧のブランドである『東濃ヒノキ』等の木材の流通生産やブランド力アップに取り組んでいます。

 

*東濃ヒノキ:飛騨川と木曽川に挟まれている地域を産地とする桧のブランド。標高が高い環境でゆっくりと育つため油っけが多く、断面が薄くピンクで発色の良い色艶や薫り高さが特徴

 

そこで課長として働く柘植啓太(つげ けいた)さんに仕事への信念や幼少期から今に渡る山への想いをお聞きしました。

家業として営んでいた製材屋さんから「山にたずさわりたい」という想いが芽生え、アカデミー(専門学校)での経験を経て今の仕事につながるストーリー。そこから市場に関わるみなさんや山に対する想いが、仕事への信念になっていったこと…。白川町の産業である林業の若き担い手の想いにぜひ触れてみてください。

 

大切な財産を預かるということ

——啓太さん、今日は宜しくお願いします!

宜しくお願いします!

——木材が整然と山積みになって並んでいる光景が壮観です!啓太さんは、ここ『東濃ヒノキ白川市場協同組合』でどのような仕事をしているんですか?

木材の仕入れから営業まで行ってます。この市場への木材の積み下ろし作業もやってますね。

 

木材市場の中央に立つ柘植啓太さん

市場のど真ん中で。

 

——仕入れから営業まで。木材の営業というとどんな方への営業になるんでしょうか?

売り手でいうと山主さん、買い手でいうと製材屋さんなどになるのですが、どちらにも営業してますね。

——どちらにも、ですか?

山主さんには「こういう木材が売れやすいですよ~」って伝えたり、

製材屋さんには「こういう木材ありますがどうですか?」ってに営業にいったりしてますね。

——なるほど!売り手には売れ筋の情報を、買い手には仕入れた木材についての情報をお話ししているんですね。

時には具体的に「この木を3mで切った方がいいかな~」とか。「太さはこれくらいがいいですよ~」なんて事も、山主さんに相談したりします。

——買い手側の情報を直接入手して、それを基にした木材の需要がわかっている市場だからこそできることですね。

木材の価格は、それが使われる製品の価格から決まるんです。その製品の材料原価に応じて、利益や経費を考えて買い手が入札する。

一般的に曲がっとる木は価値が低いと言われるけど、たとえばお寺の建築ではその曲がりが求められていたりする。でもニーズがない時に出しても値がつかない

——だから買い手側とコミュニケーションして、ニーズを把握してその情報を参考に仕入れてきて売ると。

そう!でも予想を上回って高く売れることもあるし、期待したとおりにいかんこともあります。市場は入札形式ですがもちろん市場側でも最低ラインも決めてます。山主さんからお預かりした大切な木ですから。

——売り手側(山主さん)と買い手側(製材屋さん等)の想いを聞きながら、木材の価格を適切に調整し、山主さんにとって価値ある形で木材を送り出す場なんですね。

木材の年輪を見る啓太さんとインタビュアー

啓太さん「年輪を見るだけで山の状況がわかったりする」

 

林業全体として実際は買い手市場になってますが、バランスが取れるようにできたらいいですね~。あと山主さんからしたら、山はご先祖さんとか誰かから受け継いだ大切な財産やもんで。だって、1本の木を資材としてちゃんと使えるように育てるには最低でも30年~50年かかりますから。それだけの年月をかけて育てて、初めてお金になるんです。

その一部を我々が預かるからには『人の木でも自分達の木であるように扱わんと』とは思ってます。

——預かった大切な財産を、自らの商品として買い手の情報を参考に市場で入札販売していく。町の木が一手に集まる市場だからこそ、そこで高値がつけば町の木材の価値をあげることにつながる。ですかね?

そうですね!市場では売り手とも買い手とも接しながら、時にかけひきも交えながら価格を提示する。だから山に行かんくても充分に楽しみがありますね。

——そういえば…啓太さんはずっとこちらの市場で仕事を?

そうですね。ずっとこの市場です。ハタチの頃からこの市場に勤めてもう14年以上経ちますね。

入札が行われる日に市場に来る人に振舞われるカレーを食べる啓太さん

入札が行われる日に市場に来る人に振舞われるカレーを食べながら。おいしかった…。

どれを切ったら一番高く売れるのか?

——山の仕事への意識はいつ頃から芽生えたんですか?

高校の頃ですかね…。でも製材屋をやってた家業の影響もあって、小さい頃から山に携わる仕事をしたいとは思ってました。2人の兄が家を出たので、誰かが継ぐってなると僕かな…って。だからそれらしい勉強はしとかなかんって思ってたんです。

——それで高校卒業後は林業関係の学校に行ったんですか?

そうです、岐阜県林業短期大学校(現 岐阜県立森林文化アカデミー)に入りました。

——学校ではどんな勉強をしたんですか?

1年は座学、2年は自分の課題研究をするんですが、卒論テーマは『伐倒したときにどれだけの危険が潜んでいるか?』にしました。伐採した木が倒れるところに人形を置いて、その人形のダメージを見てみたり、ヘルメットかぶせて木を倒してみてどれだけ凹むかとか検証しましたね。

——想像するだけで迫力ある…危険と隣合わせな実際の現場の事を考えたテーマですね。

大きなクレーンがついた重機を使い市場に届いた木の状態を一瞬で判断して素早く仕分けていく様子

市場に届いた木の状態を一瞬で判断して素早く仕分けていく。職人芸です。

 

——ここまでは完全に山師さん(木こり等)になる流れですが、いつから『木材の価値』に意識が向くようになったんですか?

アカデミーの時に間伐の実践で木を切っていた時に、「これ1本いくらになるんや?」って素朴な疑問が大きくなっていったんです。家業をみて、木材の価格が段々下がっていたのも感じとったから。そんな時代の流れもあり家業はもうやってないですが。

——現場を知って木を切る事について学ぶ過程で、家業の製材屋さんとして重要な「木材の価格がどう決まるか?」に目が向いていったんですね。。

そうやね。そもそもなんで木が安くなったかも分からないし、「家業つぎました。山があります。ではどれを切ったら一番高く売れるのか?」って考えたら全然わからんな~って。もしかしたらお宝が眠っとるかもしれんけど、それもわからんよね。

木材が整然とならぶ市場の様子と啓太さんとインタビュアー

山に囲まれた広大な敷地に木材が整然と並ぶ

 

——価格の基準がわからないと、実家が持っている山もどうしようもできないと。

うん、どうしようもない。アカデミーでも「真っすぐな木や太い木は高く売れる」とか漠然とは教えてくれるけど、実際の市場ではすごい曲がってる木が相場の2倍になったりすることもある。でもニーズがない時に出しても値が付かない。

——だから正確なニーズを把握することが重要なんですね。その情報をもって、売り手と買手をつなげていく。

そう思うと売り手と買い手、どちらの顔も見える市場も面白いです。木材の市場を調べたり色んな人に話を聞いたりして、木を毎日見とると良し悪しが何となくわかるようになる。自分自身、山や木をそういう目で見てこれるようになったんかもな~と思います。

——当たり前ですが、素人目には木材の違いさえもよくわからないです(笑)色々な方から情報を直接仕入れて、価格と格闘しながら何千、何万と木材を見てきたからこそ、備わった目利き力ですね!

 

重機にのって操作する啓太さん

熟練のプロのまなざし

そういう人達のためにも木を高く売りたい

——啓太さんの目から見て日本の林業や市場の現状はどうですか?

日本全体の林業としては、需要と供給のバランスがとれてないのが現状だと思います。ここ10年は山の木の価値がすごーい下がってきとるもんで。

——外国産の木材需要の影響とかですか?

そう。外国産の安い木がバンバン入ってきたり、住宅の建築様式の変化で和室の部屋が少なくなっとる影響もありますね。国産材は日本で資材として使われる木材全体の3割くらいしか使われてないんやないかな…。

——そうなんだ…。

製材屋さんも最終的な製品価格からぼってくる(計算する)から、製品価格が安くなったら材料である木材ももちろん安くなる。

——八方ふさがりな気が…。

木材は山主さんの大切な財産。何十年も手をかけて育てられた木だから、出来る限り見合った価格で売りたい。でも時代のニーズにあった木でないと値がつきにくい。ほんと、はがゆいです。だから時代のニーズをくみ取り製品をつくる最終的な製造側とも、連携できるようになったらいいな…と思っています。

看板犬のさくらちゃんと遊ぶ啓太さん

看板犬のさくらちゃんと。プロの眼差しもほころぶムードメーカー。

 

あと製材屋さんや山主さんだけじゃなくて山師さんなどの『木を切る人』もすごいです。アカデミーで勉強してて思ったのは「やっぱ山はこえーな」ってことです。いくら知識をつけても現場では何が起こるかわからんし。

切れって言われても自分じゃ出来んけど、木を切る人がおらんと僕等も食べていけん。僕は山師にはならんかったけど、今までの経験があるから山を切る人をすごい尊敬してます。だから山師さんなど実際に現場に携わる人達のためにも木を高く売りたいって思います。

——山主さんだけじゃなく、山師さんの想いも価値にしていくための信念。かっこいいです!ちなみに白川で林業に携わる人を今後募集するとしたら「こんな人が向いているんじゃないか」ってありますか?

山に興味があって機械好きな人が向いているカモですね。あと、市場や流通に興味がある人ならきっと面白いんじゃないかと思います!

——啓太さんみたいだ!

市場の中を歩く啓太さんとインタビュアー

市場をぐるっと案内してもらいました。あつい!

 

僕みたいかはわからんけど(笑)色んな人とコミュニケーションをとって、木を見極めて、白川の資源を価値に変えてくれる人がもっと必要やと思います。そんな人が来てくれたら嬉しいですね!

あと、僕のすんどる周りには山が沢山あるのに、活用されない山や木があってそれは勿体ないな~と感じています。だから、キャンプ用や、薪ストーブなどの材料など時代にあった木を育てられるような山を作れたらいいなと思っています。

——白川の資源を価値に変えるためには、啓太さんのように素朴な興味や自身の想いを原動力に市場のニーズをくみ取り、林業に関わる人達に向き合い、そんな人達の想いを実際の木材の販売につなげていくことが大事なんだと感じました!

この木材市場は町内の祭りなどで使われるので、訪れたことはありましたが実際の仕事現場を拝見させて頂いたのは初めてでした。啓太さんの仕事への想いだけでなく、いつも見ているだけだった場所を身近に感じることができました。

ありがとうございました!

 

重機の前で笑顔の啓太さん

 

【柘植 啓太(つげ けいた) さん】

屋号   :丸英

出身   :蘇原地区

学校   :白川中学校・岐阜県立加茂農林高等学校・旧 岐阜県林業短期大学校

職歴  :東濃ヒノキ白川市場協同組合

趣味  :焚き物づくり(趣味かどうかわからんけど)

読んでくれている人に一言:一緒に山いきましょう!

【東濃ヒノキ白川市場協同組合】

〒509-1113 岐阜県加茂郡白川町三川1399−3

☎:0574-72-2345

公式サイト

Instagram

<map>

つづけて読む

ABOUT

家を『屋号』でよびあう慣習が根づく白川町そんな町の想いを集め人と集落と未来をつなぐ