白北地域在住で、日本酒の蔵元に勤めながらコーヒーショップ『て~る珈琲』さんとして出店されている田口 照章(たぐち てるあき)さん。
味に関わる仕事につとめて数十年…。お酒づくりから珈琲づくりにつながっていった経緯や、焙煎機も自作してしまうほどの探求心とそのこだわりについてお伺いしました!
授業での出逢い
——照章さん、宜しくお願いいたします!イベントなどの出店でよく拝見するので、照章さんといえば、て~る珈琲さんというイメージが強いです。
よく言われます(笑)でも今の本業はお酒の蔵元での生産管理的な仕事なんだよね。工場長的な立場でお酒が出荷されるまでの工程を管理してます。八百津で「玉柏」っていうお酒をつくっている蔵元なんですが。
——玉柏!岐阜県内でも知っている人は多いと思います。
お酒作りが忙しくなる9月前まで土日休みだから、て~る珈琲の方でも僕がイベント出店していることが多い感じやね。(取材は7月頃)
——なるほど!お酒とコーヒーは近い領域な気がしますが、お酒の仕事は長いんですか?
もう20年以上になるかな~。名古屋の専門学校の頃からお酒づくりに興味が出てきて、それからの流れで。
——ちなみに、お酒づくりとなると何学科になるんでしょうか…?!
バイオテクノロジー学科ですね。最初はお酒じゃなくて最先端技術に興味があって…。進学の頃、遺伝子組み換えの問題が出た頃だったんです。クローン羊とか。
——クローン羊!小さいながら結構衝撃だったのを憶えてます!(30代以上の人にはリアルタイムなニュースかな…)
そういうのの”走り”だったから、技術を身に付けたらこりゃすごい事やと思って。でも学ぶうちに「難しすぎるわ!」ってなったんです。
——技術が世に出始めの頃だったら、尚更難しい言葉や内容が多そう…。
そんな時に有名な先生が来て日本酒の授業があったんです。その授業で「お酒づくりは冬忙しいけど夏場は1ヶ月以上休める」と聞いて…こりゃええやないか!と思って(笑)
——お休みの内容に惹かれている!(笑)
海好きだしいいな~と思ってね(笑)でも最初働いた蔵元は焼酎もつくっていたから、年がら年中仕込みで…「やすめねーじゃん!」ってなりました(笑)
——焼酎は盲点でしたね(笑)
でもそこで5.6年と働くうちに酒づくりをおぼえてきて…こうゆう酒をつくりたいと想うようになってきました。
——おお!お酒づくりにハマってきたんですね!
でも蔵の中で働いていると「世の中がみえない」ってことに気づいてきたんです。
嫁さんの夢と自分のやりたい事が重なった
——「世の中がみえない」ですか?
中規模の会社だったんで、生産と販売がきっかり分業体制だったんです。なので蔵の中に入っていると、今流行りの酒が全くわからんくなってることに気づいたんですよね。
だから次はベルギービールと日本酒とワインをメインにしている『酒屋さん』に転職したんです。
——実際に消費者と接してお酒を販売する小売り店に移ったわけですね。
そうです。その内にワインへの興味が高くなっていたんですが、ワインを学びながら飲食店の人達と話していたら自分でお店を持ちたくなっちゃって…実際にフランスのボルドーに3か月、ベルギーに1ヶ月ワインの勉強にいったりしました。そっちにワインの師匠もいたので。
——本格的な滞在!!そこからお店を?
いいえ。やりたいと思ってたんですが、実家に帰ってきて結婚したりなんだりしてお店のことは一旦置いていました。でもそのうちにタイミングが来たんです。
——それがまさか、て~る珈琲さんですか?
そうですね!嫁さんがコーヒー屋さんとか飲食店をやりたいという希望を持っていたんですが、ちょうど嫁さんの親戚が持っている物件が空いたという事が分かって。
これは条件が揃ったなと。
——おお!なんてタイミング!
あと…実はコーヒーの味の表現ってワインから来てるんですよ。
——え?!そうなんですか?!
『ナッツの香り』とか表現したりするんですが、完全にワインも一緒。素材・産地やブレンドなど味の組み立て方はワインとコーヒーで考え方は一緒だから「これはイケル!」と思ったんですよね。
——照章さんが培ってきた経験と夢と、奥さんの夢がぴたっとハマったんですね。素敵や…。
でも店やる数年前までコーヒーは嫌いだったんですよ(笑)
自分が味わった感動を伝えたい
——え、コーヒー嫌いだったんですか?!よくコーヒー屋さんやろうと踏み出しましたね…!
インスタントコーヒーとか喫茶店で出てくるコーヒーは全然飲めなくて…。でも嫁さんがお店のためにコーヒーの勉強をし始めたから、何か力になれたらなと思ってね。
——いやもう、さっきから素敵すぎ(笑)
でもその内に段々と好きになっていったんです。嫁さんに伝えるため…お酒の営業のついでに名古屋のおいしい珈琲の店をまわって試飲してたりしたら「結構おいしいコーヒーもあるんだな~」って思ってきて。
——それほどのコーヒーと出会ったんですね!
そうなんです。自分がそうだったように「おいしい珈琲なら飲める」って感動も伝えたい。だから、て~る珈琲ではコーヒー嫌いな人も飲めるコーヒーを目指しているんです。
——私も実はコーヒー得意じゃないのですが、て~る珈琲さんの珈琲はすごく飲みやすい印象があります。そうゆう想いで作られていたからだったんですね。
『冷和コーヒー』もそうですが、苦味がきつくなく飲みやすいコーヒーをこれからも作っていきたいと思っています。
ちなみに最初から、焙煎機も自分で作って試しながらやっていましたね。
——え、焙煎機を自作?!あれって作れるものなんですか?!
初号機はホームセンターで買ってきたシンクのゴミ受けを、2つくっ付けてかごにして作りました(笑)
——予想の斜め上を行くシンプルさ(笑)
改良重ねて弐号機もつくったね。それはレーザー溶接をやっている兄に手伝ってもらって作り込んで、焙煎温度を変えられるようにしました。弐号機つくっている時には、ここまで来たら商売にするしかない!って想い始めましたね。
——焙煎温度も…研究熱がすごい…。
て~る珈琲では、常時15種類のコーヒーが並んでいるですが、そのうち1種類は『て~るラボ』って言って実験的な種類として位置付けているんです。
自分の気に入った珈琲の産地をピックアップして、自分の好きなやり方を変えながら
産地と煎り具合も常に実験しています。
——常に新しい味を研究、模索しているんですね。
お店がある恵那の栗をつかった珈琲や白川の白川茶など、所縁がある場所の産物とのコラボも色々試しているところですね。
『 不可解』から始まる
——焙煎機も今いる工房の装飾(藍染等)も自分でつくったり、研究熱が高いと思ったのですが…それは小さい頃からですか?
どうやろうね…小学校の時とか動物が好きでイモリを100匹集めたことはあるけど…
——100匹は親御さんも心配しそうなレベル(笑)
「この子大丈夫かな?」って思ってたかなと(笑)でも色んなことに実験的にやっていくのが好きなんかもしれんね~。
——コーヒーもお酒も、その『実験欲』に触れたモノだったとか?
『不可解』から始まっているのかもしれない。昔から想像ができちゃうと満足しちゃう。だから逆に「これは自分じゃできないぞ~」と想う程、手に入れたくなるのかもしれない。
——なるほど『解明したくなるモノ』だったんですね。
でもお酒の場合過程が長すぎるじゃない?工程もそうだし、出来上がる期間も最低で1ヶ月くらいかかる。そうなると自分がつくりたい物がホント限られてくる。
——個人でトライ&エラーするには厳しい…
そう。コーヒーは豆の仕入れやブレンドとか組み合わせが無限大にあるけど、制作はかかっても1週間。工程が短いから余計にのめり込みやすかったんだと思う。
——トライ&エラーの時間が短いことが照章さんの実験気質にマッチしていたんですね!
あと、人間味があるものっていいですよね。昔の車とか好きなんですが、効率もへったくれもないデザイン重視の所がいい。今ではありえないって感じのデザインもある。アンティーク品もそうですが、人間の”こだわり”や職人精神がないと、そういうモノって生まれない。
——人間味といえば…お酒も最たるものだ。
絵画とか残るものって、ずっと残る。
でも、日本酒とかワインとかお酒は永遠では無いじゃないですか?一瞬じゃないですか。そこが一番贅沢ですよね。
儚さもあるし芸術性もある。
——そんな『芸術性』『不可解さ』『人間味』…照章さんの実験気質にぴったりはまるのがコーヒーだったと。
そうやね。自分で全て出来れば自分の想いをしっかり込められるしね。
あと、将来的にはお酒を売る方もやってみたいなと…
こうゆう工房みたいな場所で、数名様限定でメインからラストまで出せるようなお店を持ってみたいですね~!
——お酒が飲めない人も、飲める人も楽しめそうなお店が出来そうですね!楽しみにしています!本日はありがとうございました!
取材年月:2022年7月※記事中の年月は取材当時のもの