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「研究するだけだったら意味がない」

白川町をフィールドに研究した農学部院生が想う『農と幸福』の関係

大学での研究で白川町を度々訪れており、企画カフェ『白川まるっとカフェ』のメンバーでもある名古屋大学 農学部 森林・環境資源科学専攻(森林社会共生学研究室)の安井里緒(やすい りお)さん。

白川町をフィールドにしたから感じた、町の農業とブータンの意外な関係性や、農と地域社会に対する想いをお聞きしました!

 

有機農業に意識はなかった 

——里緒さん、宜しくお願いいたします!白川町でよくお会いするので「白川町民…?」という錯覚を起こすほどです(笑)

それは言い過ぎです(笑)白川町をフィールドして卒論を書かせていただいたのですが、それからのつながりで院生となった今でもよく来させてもらっています!

——町を研究フィールドにされたことがとても興味深いですが、たしか有機農業を題材にされて大学の卒論を書かれたんですよね?

そうですね。正確には「中山間地域への移住促進に有機農業が果たす役割」というテーマで書きました!

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黒川地域の農業研修施設『黒川マルケ』でお話を聞きました。

 

——特に黒川地域・佐見地域は有機農業が盛んで、それをキッカケとして様々な人が訪れているイメージがあります。安井さんは大学当初から有機農業に興味を持たれていたんですか?

いや、全然です(笑)しかも、大学入学前は農業自体にすごく興味があったわけではなかったんです。

——あ、そうなんですね!なぜまた農学部に?

たまたまテレビ番組『情熱大陸』で、カンボジアでバナナペーパー*事業を立ち上げた、山勢拓弥さんのことを見たのがキッカケですね。

*バナナペーパー:バナナの茎からできる紙のこと。

——それ見ました!20代の方ですよね?!

そうです!ゴミ山で働く子供たちに健全な雇用を生みながら環境を良くする、という取り組みがすごく印象に残っていて。

「こうゆうことが出来る、学べる大学にいってみたい!」と思ったんです。

ーそれで色々調べてマッチしたのが名古屋大学の農学部だったんですね!白川町に最初に訪れたきっかけは農学部の研究とかですか?

あ、違います(笑)農業サークルの時の活動ですね!

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名古屋大学 農業サークル『F&M』のみなさん。色々とまぶしい…

「なんでこんなに人がきてるの?」

——農学部であり農業サークルにも所属されているんですね。

そうなんです。最初に白川町に来たのは大学1年生の時の農業サークルの合宿でした。その時は正直「夜ご飯のお鍋楽しかったな~」という印象が強くて(笑)白川町と深く関わる感じではありませんでした。

——お鍋(笑) 

でも、体験含めて「楽しかったな~」って印象が強くのこっていたので、卒論のフィールドワークの場所を考えている時に白川町を思い出したんです。

丁度、興味のあるテーマが『都市と農村の関わり』だったので。

——白川町は兼業農家が多い、The農村ですもんね。そこで『有機農業』がつながるわけですね!

そうです!サークルの合宿の時に知り合った黒川地域の有機農家『和ごころ農園』さん(伊藤さん)のワークショップを見に行ったときに、町外から多くの方が参加されていたんです。

山間地域で、観光地でもアクセスが良いわけでもないのに「なんでこんなに多くの人が来てるんだろう…?」と思ってビックリして興味を持ちました!

——確かに…東京から参加される方もいるみたいで。

それで調べていったら『有機農業が、人を惹き付けるひとつのポイントになっているんじゃないか?』ということが分かってきたので、卒論のフィールドワークの場所として決めました!

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白川町・黒川の『暮らすファームsunpo』の児嶋さんに、卒論研究でお話を聞いている様子。

 

——たしか、フィールドワークでしばらく白川町に滞在していたんですよね?

そうですね。昨年2021年10月に10日間くらい滞在していました。

黒川地域の塩月祥子さん*が色々な人を紹介してくださったり、地域おこし協力隊の彩さんの所で寝泊りさせてもらったりました。しかも農家さんが、お母さんお父さんのように接してくれたり…本当に皆さんすごく親切にしてくれました。

*塩月祥子さん:グリーンツーリズムやアート・地歌舞伎振興など、町の様々な活動を行っている移住歴15年以上の黒川在住の方。現在は集落支援員として活動されていらっしゃいます。

——里緒さんの接しやすい人柄も、もちろんあると思いますが…町の人が『おせっかい』なのは間違いないと思います(笑)

卒論での滞在以降も「これがあるから来なよ!」って、色々な人が誘ってくれるんです。

『ただ遊びに行く』のはハードル高いけど…そうやって呼んでくれる人や、温かく迎えてくれる人が多いから「いこっかな~!」と思うし、友達も連れていきたいと思いますね!

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白川町の『里山の暮らし』をPRするプロモーション映像にも出演した里緒さん。東濃桧のバレルサウナでととのってます。

『研究をするだけ』だったら意味がない 

——町の人が「りおちゃん!りおちゃん!」って呼んでいる光景をよく見かけます(笑)

こんなに町に深く関わらせて貰えるとは思わなかったです!

あと、卒論で白川町とも関わる中で『有機農業が社会的にもたらす役割と、その変容』という自分の興味のあるテーマが見えてきたんです。

——卒論だけのテーマではなく、里緒さん自身のテーマも見えてきたんですね。

そうですね。同時に『研究するだけでは意味がないんじゃないか?』と考えるようになったんです。

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核心に迫る面持ち…。

 

——たしかに大学の研究内容は社会に反映されるまで、時間がかかりそうなイメージはありますが…。

化学的な研究だったら、研究結果を発表したら実際に商品になって社会に影響をあたえる。ということがわかりやすいですよね?

でも、私の研究分野は実験をするわけではなく、文献調査をしたり現地に出向いてフィールドワーク(聞き取り調査・アンケート)をしたり、といった手法を用いることが多いんです。

——「農と人とのつながり」が研究分野だから、フィールドワークで研究することが多そうです。

それで実際に有機農家の方に沢山話を聞かせてもらいました。

でも「今やっていることは白川町の人達にとってメリットがあるのかな…?」と自分に質問したとき、正直わからないなぁと思ったんです。

——自分にすごいキツイ質問を…!わかりやすく何かをギブしているわけではないと。

そうですね。だから自分の研究を通じて、学ばせてもらった地域に対してもプラスになるようなことがしたい!と思ったんですよね。

『有機農業が社会的にもたらす役割と、その変容』というテーマが浮かんできたのも、地域社会に直接関わるからような事だったからだと思います。

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白川町のロスフードなどを活用した企画カフェ『白川まるっとカフェ』メンバーのみんなと。地域の課題×自分たちの夢でつくられたカフェで、定期的に開催予定。

 

——これからは『有機農業が、どんな形で人や社会をつないでいるか』という所を深堀りしていく感じですかね?

うーん…。実は実際にやりたいなと思っていることがあるんですが…それはブータンの有機農家の人と、白川町の農家さんとの交流をつくることです!

——え?!ブータンですか?!(いきなりワールドワイド~)

白川町とブータンに見た『農と幸福』の関係

はい(笑)今年9月から来年2023年の3月くらいまで、ブータンに滞在して有機農業に関わる研究を行うことになったんです!

ーかなり長期滞在ですね!みっちり研究ができそう!

白川町で学んだことをブータンでも活かしたいですし、逆に白川町や関わった地域の人たちにプラスになるように何かを持ち帰りたいと思っています!

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白川町のゲストハウス『晴耕雨読とみだ』で研究室のみんなと、白川町の塩月祥子さん樋口彩さんとパシャリ。同じ研究室には外国から学びにきた学生さんも。

 

——それは町の人たちにとっても有難いんじゃないかと思います!そういえばブータンって『幸福度No.1』の国でしたよね?

そうです!『GNH』(国民総幸福量)という国民の幸福を顕す指数があって、それを基に国が運営されているんです。

——幸福指数があることは何となく知っていましたが…。日本でいうGDPよりも、国の舵取りに大きく影響しているんですね。

実はその流れで、ブータンでは有機農業を100%にするという目標が掲げられています。でも国家と実際に農業を行う農民とで、大きく意識の乖離があるようです。

——「100%なんて実際出来ないよ~!」ってことですかね?

そうなんです。『有機農業』そのものがブータンで浸透していなかったり、日本と違って有機野菜と通常の野菜の価格に差がなかったり…。

——え、金額同じなんですか?!有機農業って、ただでさえ大変でお金がかかるのに。

だからブータンの人にとって有機農業ってどういう存在なんだろうと思った時に、白川町の有機農家さんや、農を中心とした暮らしが頭に浮かびました。

——え、そうなんですか?一見つながりがなさそうですが…

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白川町・黒川の有機農家『和ごころ農園』の伊藤さんご夫妻と、地域おこし協力隊の樋口彩さんと。

 

白川町の有機農家さんやその農家さんに関わる人達の暮らしって、すごく『GNH的』だなって思ったんです。

——(??)
と、いいますと…?

『日の光』や『気持ちのいい風』などを感じながら自然と共に生きていて、農を中心として充実感のある精神的に豊かな時間を過ごされている方が多いなって。

——…なるほど!里緒さんが主に滞在していた黒川は特にですが、有機農家さんだけで無くみなさんが自然と自分の好きなことをやっている印象があります。

有機農業だけを生業としている人は多くはないですが、ご自分達のペースで様々なことされていますよね。『半農×半X』的な生き方と呼ばれるような。それらの営みが自然と環境のためになっていて、その意義を自分達でも感じている。

あと、実際にビジネスとしても拡がる仕組みがありますよね。

——有機農業でまちづくりを目指す団体である『ゆうきハートネット』さんとかですね!

そうですね!そういった経済的に成り立たせるための仕組みや、白川町の農家さんの『GNH』的な暮らしがブータンでもヒントになるんじゃないかと。

——それが、経済面だけじゃない有意農業のメリットにつながると。

はい!そういった白川町で学んだことを、ブータンの人達の生活に活かせるような研究ができたらな〜と思っています!

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白川町で放送されるローカルテレビの取材に答える里緒さんと料理長の黒木さん

 

ーなるほど!環境が違う人達の意識や仕組みを比較して、お互いの地域にとってプラスになるようなことをしていくんですね!

そうできたらいいなと思っています!でも「有機農業が良い・悪い」ではないと思っているので、フラットな目線で学んでいきたいです。

ー白川町の農家さんも「有機農業」を他の人達に押し付けるわけでなく、自分がいいと思ってやっている雰囲気ですよね。

では里緒さんとしては、今後も農を支えることをメインにしていきたいという感じですか?

今後というと……まわりの子達はもう就活に動いている時期ですね(笑)

実際に農業をする側なのか、支える側なのかはまだわかりませんが、農に関わる事はしていきたいなと思っています!

ーよかったら白川町も活躍場所の候補に入れてください(笑)

まさかブータンと白川町の農業がつながるとは思いませんでした。帰ってきたらまた是非、お話を聞かせてくださいね。

ブータンでの活動がんばってください!本日はありがとうございました!

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取材年月:2022年6月※記事中の年月は取材当時のもの

名古屋大学農業サークル F&M
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