県内産の原木100%・オーガニックな椎茸栽培に力を入れられている、清水しいたけ園・園主 清水寛之(しみず ひろゆき)さん。
先代から続く清水しいたけ園や、しいたけを中心とした好循環を生む環境づくりへの展望などをお伺いしました!
次のエースを常に探している
ー寛之さん、宜しくお願いします!早速ですが、清水しいたけ園さんについて教えて頂けますでしょうか?
はい。当園は施設栽培で『原木しいたけ』を育ている農家で、原木の総本数としては2万7千本をハウス9棟で管理しながら育ています。
——2万7千本…!想像ができない本数ですが…全てみなさんの手で原木に菌を植えられているんですよね?
そうですね。温かい時期では雑菌が入りやすくなってしまうので、冬に一気に椎茸の菌を木に 植え込むんです。
——冬が心も体力も集中させる時期なんですね。
そう、ただウチは通年栽培ができるハウスを使った『施設栽培』なので、通年的に安定的に供給できる体制を目指してます。山中で育てる『路地栽培』は春・秋にしか収穫できませんからね。
——安定供給という点でいうと品種の数も重要になってきそうですが、どれくらいの種類の椎茸を育てられているんですか?
10種類ですね。安定的に出せるメイン品種が2~3種類。あとは、一癖ある特徴的な品種が多いですね。
—— 一癖ある品種ですか…?供給のことを考えると、安定した品種を増やした方が効率的のような気がしたのですが…。
実はそうでもなくて…今安定している品種が、今後も安定するとは限らないんです。
——年々気候も変わっているから、ですかね…?
それもありますが、椎茸は『菌』なので元の特性から変化することがあるんです。たとえ同じような環境だったとしても、同じように育つとは限らないんですよね。
——非常に敏感…。だからメインでない品種も多く育てていらっしゃるんですね。
そうですね。単純に少ない品種だと病気に侵された場合、一気に全滅してしまいますし…。常に次のエースを探している感じかな。
——安定供給を大事にされているからこそ、常に種まきをして多様性を確保しているんですね!
「運命が決まったのは2才の時」
——あと、清水しいたけ園さんではお米もつくられているとか。
そうですね、無農薬米をつくってます。僕が平成27年に園主になった時には、椎茸事業をまず引き継ぎました。それからしばらくしてお米も引き継いで、今では僕が全体を管理しています。
——園主になられて7~8年目かと思いますが、最初『継ぐ』となった時、やはりプレッシャーはありましたか?
ないと言ったら嘘になりますが、割りと自然な流れだったので変に意識することはなかったかなぁ…。僕が高校の頃は兄2人が就職していたので「自分が継ぐものだ」と思って生きてきましたし。
——ちなみに、いつ頃から『継ぐ』ことを意識しはじめたんですか?
うーん……。元たどれば2才の時かもしれない。
——え……?!2才、ですか?!(記憶があるのがすごい)
多分(笑)
干し椎茸ってありますよね?椎茸を乾燥する時に天日干しにするのですが、干している時って結構香りが強く出るんです。
——は、はい…(え、どうゆう事だろ…)
一番幼い頃の記憶が…その椎茸の横に座っている時に嗅いだ、干し椎茸の『強~い香り』なんです(笑)
——なるほど!最初の記憶がそれなんですね!(笑)それは何か特別なものを感じちゃいます!
そうですね、もうその時に運命づけられていたのかなと(笑)
中学の時には、学校の先生から椎茸の注文を受けてましたし。
——営業キャリアの開始が早すぎる(笑)
椎茸を、自転車のカゴいっぱいに入れて通学するのが普通でしたね~。給食センターに届けたりもしました。
先生から注文を受けていたのは、その時『原木しいたけ』をつくっている農家自体珍しかったからかもしれません。しいたけ農家さん自体は町内にも数軒ありましたが。
——どの農業も同じかもしれませんが、町内でも椎茸農家さんは減っていますよね…
そうですね。昔は佐見だけでも5.6軒あったんですが、今ではウチだけですね~。
原木しいたけ自体に風評被害があった
——長く続けられているのも、『原木しいたけ』や『無農薬』にこだわって栽培されてきた事が大きいのでしょうか?
それもあるかもしれません。ただ、その原木の調達も難しい苦難の時期もありました。
——それは本当に死活問題…それはいつ頃の事だったんでしょうか?
2011年、東日本大震災が起こった年ですね。実は福島は原木の生産量において、全国屈指だったんです。
——福島が…全然知らなかった…。
ウチも福島から原木を仕入れていたんですが、震災の影響により使用に制限がかかったんです。しかも、お客さんからの反応もかなり変わりました。
——風評被害などで、ですかね?
そうですね。だから徐々に県内産の原木の割合を大きくしていきました。それでも風評被害があったんですけどね…。
——え、岐阜県産でも風評被害があったんですか?!距離が離れているのに。
『原木』自体に風評被害があったんです。『木で育てている』事自体のイメージだと思いますが…。いつも出店しているマルシェでも「放射能測定はちゃんとしているか?大丈夫か?」というお声が多くありました。
——その方々のお気持ちも理解できるのですが、つらい…。
もちろん、ちゃんと測定して問題ないものを出していました。そういったキッカケもあり、県内産の割合を増やしていきまして、今では100%県内産の原木を使用しています。
——完全県内産にまでシフトされたんですね!町内産の原木もあるのでしょうか?
はい、実証試験も含めて2,000本程度活用していますね。椎茸の原木はコナラやクヌギなどの広葉樹を活用する*のですが、白川町は針葉樹がほとんどです。でも、出来る限り活用したいと思っていますね。
——確かに町の名産でもある『東濃桧』も針葉樹ですね。確か建材として活用されるのも主に針葉樹ですよね?そういった商業面でも、今後劇的に生産量が増えることはなさそうですが…
そうなんですよね。なので、自分たちで植樹も始めました。
しいたけを軸にして『営み』をつくる
——自分たちで植樹まで!安定供給のためとはいえ、大変じゃないですか…?
短期的にみたら厳しいですが、長い目でみたらそちらの方が効率的で生産的なんですよね。あと、木にも『しいたけ原木』として使える適齢期があるんです。
——大きすぎると使い辛いとか、ですか??
そう、大体20cmを越えると原木として使い辛くなるんです。あとは、広葉樹は20cm以上の適齢期を越えた状態で伐採すると、そこから新しい木が生えないこともあるんです。
——え!!そうなんですか!?
もちろん、百年とか長い時間が経てばなんらかの木が生えてくると思いますが…農業として使うのは現実的ではないし、環境や景観の保全といった意味でも良くないですよね。
——確かに…。『針葉樹と比較して、広葉樹は無条件で地球環境にいい』と思い込んでました…。
ちゃんと自分たちで管理できれば、『しいたけ原木』だけでなく生育管理に必要な暖房の燃料としても活用できますしね。しかも、その灰は植樹した椎茸原木の肥料になりますから。
——完全なる循環の形!
そうなんです。樹を育てること自体は商売にならなくても、循環型は結果的にコストもおさえられるし、経営的にもいい形なんです。
——循環型を考えた発想の基点は、『環境のため』だけでは無く『必要性』からなんですね。
あと、既にとてもお世話になっていますが、町内の木こりさん達とも今後もっと連携していければと思っています。
『原木しいたけ』栽培を軸として、色々なものを自分達でまかなえるようになったらいいな~と思っていますね!
——それが結果的に、環境のためにも町のためになる。ですね!
先代の唯義(ただよし)も大事にしてきた『自然のものは、自然のなかで』という想いを引継ぎながら、色々チャレンジしていきたいですね!
——唯義さんも以前「作っている環境が悪かったら、悪いものができるのでは?」という事をおっしゃっていましたね!
最近では、野菜セットなどバリエーションも増やしてネット販売もトライされているとのことで、今後の展開も楽しみにしています!
本日はありがとうございました!!
(ああ、椎茸食べたくなってきた…)
取材年月:2022年6月※記事中の年月は取材当時のもの