縦向きにしてください

「それは人間にとっても住みやすい環境」

分蜂(ぶんぽう)に魅せられた内装屋さんの、地域の環境づくりとは?

今回は黒川地区の楯和久(たてかずひさ)さんにお話しをお聞きしました!

楯さんは内装業を営むかたわら、養蜂に魅了され、養蜂を学びあう会を主催するなど養蜂を通じた環境づくりをされています。

*記事中には蜂の群体写真がありますので閲覧にはご注意ください。

 

繋がりができれば仕事はある程度広がっていく

——楯さん、宜しくお願いします!早速ですが、今の仕事や活動を教えてください!

本職は内装業をやっていて、プライベートの活動として養蜂をやっています。

——内装屋さんと養蜂・・・!異色のキャリアに見えるのですが、内装屋さんはいつから始めたんですか?

45年前やね。父は農協に勤めてたから、内装を始めたのは僕の代からです。

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マスクの下からも滲み出るやさしい雰囲気の楯さん

 

——学校を卒業してからすぐ内装業を?

いいえ、学校を卒業してからは愛知県の家具屋さんに就職しました。内装の仕事をちょくちょくやってるところやったから、知り合いに呼ばれて休みの日に手伝ってたんです。内装の仕事に興味持ち始めたのはそこからやね。

——内装の仕事とは、偶然の出会いだったんですね。

そやね。元々親から「5年たったら帰って来なさい」って言われとったから、他にどうしてもやりたいことも見つからんかったし、戻ってきて黒川で内装業を始めました。

当時はクロスの材料や作業費は高級だったので、そのころは黒川では内装の仕事が少なかったんです。だから岐阜や名古屋に通いながら少しずつ地元でも広げていきました。

——地元で事業を始めるって、サラリーマンよりずっと大変だと思うのですが…

田舎は繋がりができれば、仕事はある程度広がっていくんです。それが田舎の良さですな。都会だと自分を知ってもらうのに時間がかかるし、個人ではなく会社の名前に信頼がつきますよね。

——確かに…。

地元の黒川には親の地盤があるし、信頼関係の貯金があります。今は息子に仕事を任せてるけど、そういった信頼貯金ふくめた遺産を継いでいきたいです。「楯さんの息子さんなら仕事をあげよう」ってなるように。

——地元ならではのビジネスの始め方があるんですね。今は息子さんに引き継ぎつつ、養蜂にも取り組んでらっしゃるということですが、そもそもどういうきっかけで養蜂を始められたんですか?

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養蜂箱たち。大きさも様々

美味しい桃を食べるために始めた

養蜂を始めたきっかけは、実は桃を育てるためなんです。

——え、桃ですか?!

父が昔、桃を作ってたんですよ。その味が忘れられなくて自分でも桃などを植えてみたんですが、全然実らない年があった。でも『蜜蜂が花粉交配に関わっていること』を思い出して、蜜蜂を育てるようにしてみたら実が付いたんです。

——美味しい桃を食べるために始めたんですね!(以外な理由…)

そうです。今は蜂のために果物を植えてるけど、当時は逆だった。

——養蜂はあくまで手段だったとは…。

養蜂っていうほどじゃないんやけどね。それで食べていける程作ってるわけじゃないし、この地域にはそれほど蜜源がありません。

だからうちは木を植えて蜂が住みやすいような環境を整えたんです。春は梅から始まって、さくら、サクランボ、梨、藤、ロウバイ、柿がいい感じやね。

——自ら環境づくりまで!植える木も季節に応じて試行錯誤されたんですね。

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養蜂箱がある場所で、楯さんの養蜂への熱い想いを感じます

努力じゃなく、自分が好きだからやってること

——「美味しい果物を食べたい」というところから始まって、蜂のための環境づくりまで。お仕事をしながらだと大変だと思うんですが…それだけ養蜂にハマったワケを教えてもらえますか?

そりゃもう『分蜂(ぶんぽう)』を見たいがためやね~。実際に見た人は感動すると思う。

——ぶ、ぶんぽう・・・?

蜂の巣別れです。巣がいっぱいになると女王バチが働き蜂を連れて次の巣に分かれるんです。だいたいここらでは4月20日くらいから始まるんやけど、そうすると羽音が聞こえてきます。

——…もしかして、一気に移動するんですか??

そう!まとまって動くのでダーッと雲みたいになって移動しながら、1つの箱にす~っと入ってく。その姿がもう感動的で…。入るところが最高です。舞い上がったときから嬉しくてかなわん*。その動きにも感動やね!

*かなわん:ここでは「蜂達が舞い上がった姿が嬉しくてしょうがない、それしか勝たん!」の意味

——(おおォォ…楯さんのその時の感動が伝わってくる…)蜂のお引越し!初めて聞きました。

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新たな住処に蜂達が!

 

分蜂のために木にネットを貼ったり、箱に『蜜ろう』をつけて蜂が来てくれるように待っているけど、必ずそこに来てくれるとは限らない。

——なるほど!分蜂で蜂たちが狙い通り移動した時は「自分の家だ!」と思って入ってくれた時なんですね。努力が実った瞬間ですね!

あのね~、努力はしてません。自分が好きだからやってるんです!みんな自分が好きなことをしている時って苦労は感じないでしょう?

——「~しなきゃいけない」でやってることじゃないんですね!

そうそう。だから他人から見たら努力に見えるけど、努力って言われるとちょっと違う感覚です。分蜂に会いたいがために1年頑張るんですよ。

——それでいうと、今は1番楽しみな時期なんですね。※取材時は2022年3月上旬。

うん、分蜂の時期はもうすぐやでねぇ。夏を過ぎると掃除をしたり、ダニにやられないようにメントールをいれたり、めんどくさいってなるけど。それでも楽しいんですよ。

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蜂の事を話す楯さん、すごく楽しそう

『蜜蜂がいる環境づくり』が地域のためになる

——実際の分蜂もみてみたくなりました!そういえば楯さんはどうやって養蜂を学ばれたんですか?

山梨在住の『花輪』さんという方に色々教えてもらいました。黒川に蜂がおらんくなった時もその人から分けてもらったんです。

——(楯さんの師匠にあたる人だ…)

「蜜蜂を商売のためじゃなく、地域振興のために使ってくれるなら教える」って言ってもらって、蜜原木もわけてもらいました。本当に素晴らしい方です。

——原木も分けて頂いたんですね!ただ、地域振興のための養蜂といっても難しそうですが…。

蜂が住める環境は『農業に適した環境が整っている』ということなんです。

蜂は環境に敏感だから安全なところにしかいない。よく“蜂が減った”と言われてますが、その場所は農薬を使っていたり病気が増えている環境という事ですな。

——なるほど、蜂が住める環境が『農業にとっていい環境』のセンサーにもなるんだ!

そうやね。しかもこの地域で新しく農業を始める人は、無農薬や有機栽培の人が多いんです。だから彼らに「農業の環境づくりにもいいよ」ということで薦めてます。

——それが、楯さんが開いている養蜂の学び合いの会に繋がっているんですね。

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養蜂箱をつくる様子も見せて頂きました

 

特に新規就農をされる方は能力が高いので、そういう方がどんどん研究してくれて、地域でノウハウを共有して、みんなで環境を作っていけると嬉しいですね。あと定期的にみんなで情報交換もしてます。

——養蜂を新しく始める方にとって、楯さんは先生だ!

やー、僕はそんな「先生」みたいな人間じゃなくて。蜜蜂って本当に色んな説があるから、僕がやって良かったことはどんどん共有するし、僕が教えられないこともたくさんある。

ネットにもたくさん情報があるからそれを試してみて共有してくれたら良いと思ってます。

——みんなで一緒につくっていく場、ですね!

大事なのは、僕の言ってることも、ネットにある情報も「絶対」ではない、ということ。だから失敗を恐れず、やってみて自分の良いものを見つけていくしかないんです。

失敗はつきものだから、僕ができることがあれば手伝うし、「何か困ったときは相談して」って伝えています。

——楯さんの柔らかい雰囲気があるから、新しい人も始めやすそうです。

僕バカだからいいんですよ(笑)もし賢くて理論をバンバン言う人だったらみんな離れてったかもしれない。「何でもいいから言いたいこと言って」って感じでみんなで話ができていると思います。

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「ダーっと動いて、ひとつの箱にす~っと入ってく」

それは”地域のため”じゃない

——(楯さんの雰囲気が安心して話せる場をつくってるんだろうなぁ…)
楯さんのお話から新しい人を応援する気持ちが伝わってきます!

応援したいですよ。彼らは、黒川が好きだから来てくれてるんです。今まで新しい人に反対する人もいたけど、人が減ったらお店が減る。お店が減ったら自分たちの生活が困る。

今は車で白川の方まで行けるけど、将来的には難しいかもしれません。

——確かに…拡張工事をしているとはいえ、黒川から町の中心街に行く時すれ違えない道も多いですしね…。

ここに沢山の人に来てもらって、この地域で生きてる人で頼り合うことが大事。自分に置き換えて考えると、新しい人の応援は”地域のため”じゃなく、全部”自分のため”になります。

——全部自分の将来のために繋がることなんですね。最後にお聞きしたいのですが、楯さんとして白川町はどんな町になっていったら良いなと思いますか?

田舎らしい田舎で、住みやすい町ならいいな。あと『来たい』と思った人や町に来てくれた人が安らげるような場所でしょうか。

僕は養蜂を趣味で続けていきたい。それが地域のためになるなら、それほど嬉しいことはありません。

——蜂がいるのは美味しい野菜や果物が取れて、人間にとっても安らげるような良い環境なんだって伝わってきました。何より…養蜂をすごく見たくなるほど、楯さんの『養蜂愛』を感じました!

楯さん、本日はありがとうございました

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楯さんの明るさと養蜂愛で寒さも吹き飛びました取材年月:

 

取材年月:2022年3月※記事中の年月は取材当時のもの

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