縦向きにしてください

「山を守って未来に残したい」

『きこりおやこ』が発信を続けランウェイに立つ理由

2019年、林業従事者の地域おこし協力隊として白川町に移住した三宅佳奈恵(みやけかなえ)さん。3年間の任期満了後も佐見地区で暮らしながら林業を続け、自身の山を買い整備を進めるなど、山に関わる活動や情報発信を積極的に行っています。

 

「地元の人ですら山のことを知らない人が多い。人前で喋るのはすごい苦手だけど、やらないとみんなには伝えられないなと思いました。」

『beauty Japan*』に出場する理由をそう語った佳奈恵さん。その想いをお聞きしてきました。

*外見・内面の美しさだけでなく、女性のキャリアなど、総合的な美しさを重視した大会。佳奈恵さんはファイナリストとして、2025年4月29日に開催される岐阜大会に出場します(https://bj-nakanihon.com/

山のことを伝えるために出場するコンテスト

——佳奈恵さんは林業はもちろん、木工製品の作成やオリジナルハンモックチェアのワークショップ開催などたくさんの活動をされています。そして今回『beauty Japan』というコンテストに出場されるとお聞きしました。

SNSで林業のことを発信しているんですが、そこで運営の方から「大会に出ませんか?」ってお誘いをいただきました。それで書類審査と面接を受けて、岐阜大会のファイナリストに選ばれました。大会では事前審査と、ランウェイを歩いた後にスピーチがあって、その後のプレゼンでグランプリに選ばれたら全国大会に出る流れになります。

——それは準備など含めてかなり大変だと思いますが…迷いはなかったですか?

ありましたね…子どもの頃から人前に出るとあがっちゃって、何喋ってるか分かんないし顔もすぐ赤くなっちゃうんです。でも山のことをみんなに伝えるチャンスだと思ったし、みっちゃん(佳奈恵さんの娘さん)に相談したら「かか、絶対出て!」って。「かかがランウェイ歩くの見たい!」って言って(笑)

ご自身の山でキャンプ中の佳奈恵さんと娘さん

ご自身の山で親子2人でキャンプ

 

—–自分のお母さんがそうやってステージに立つのは、たしかに見てみたいですよね(笑)「山のことを伝える」ということについて、もう少し具体的にお聞きしたいです。

白川町って東濃ヒノキが名産なのに、伐採体験とかをしても子どもたちは山にまったく興味がないし、ヒノキのこともぜんぜん知らない。その子どもの親世代も知らない人が多くて、自分の土地の山がどこにあるのかも分からない。このままだと山のことをまったく知らない人ばっかりになっちゃって、山がどんどん荒れていっちゃうんじゃないかって思って。

—–山が荒れていく、ですか。

岐阜県は一見たくさん山があって自然豊かって思われるけど、1歩中に入ると荒れてしまってるところも多いんです。

荒れているところは、戦後に建材をつくるために補助金でたくさんの針葉樹が植えられて、でもだんだん木材の値段が下がって手入れされなくなって、間伐もされずにひょろひょろの木ばっかりになっちゃったんです。そうすると陽が入らずに地面に草が生えなくて、土の保水力がなくなって土砂崩れとかの自然災害も起こりやすい。

——人の手によって山の中のバランスが崩れてしまったというか。

それに広葉樹と違って針葉樹は落ち葉も少なくて、土がふかふかにならないんです。木の実も少ないし動物たちの食べ物もほとんどない。それで山に食べ物がなくなった動物が畑に出てきて、獣害が多くなっているんだと思います。

山の中を歩く佳奈恵さん

山ごとにその手入れのされ方によって「見た感じが全然違う」と言います

 

——山の環境があらゆることに影響を及ぼしている、と。

白川町は私有林(個人や企業が所有する森林)が多いので、山主さんが「山を綺麗にしよう」って思わないと私たちは手出しできない。やっぱり、みんなが山の役割を知ってやっていくこと。まずは知ってもらうことが大事だと思います。

——普段の生活で山を直接的に管理しない僕たちにできることはあるんでしょうか。

もっと山が気軽に触れられるものだと分かって、興味を持ってもらいたいですね。昔の人はよく、学校から帰ったら内緒で山に登ったり、おじいちゃんについて行って薪を持って帰ったっていう話を聞きます。そうやってみんなが山のことを学んで守っていたと思うんです。

ハンモックチェアづくりのワークショップを開催している様子

山の中でハンモックチェアづくりのワークショップも開催しています

病んでしまったからこそ気づいた「イキイキする環境」

——たしかに白川町は山に囲まれていますが、個人的には”身近なもの”というよりも”遠くから見るもの”のようなイメージでした。そもそも佳奈恵さんが林業に興味を持たれたのはどうしてだったんでしょう?

元々、自然とキャンプが好きだったんです。

岐阜県の御嵩町で山を整備したりする『水土里隊(みどりたい)』っていうボランティア団体があって、妹が「面白そうだし、いっしょに自然を見に行こう」って誘ってくれたのがきっかけですね。

——実際の現場を見て気持ちが動いたんですね。

間伐するところを見て、すごい山が綺麗になったのに感動したし、山を守ることの大切さもそこで教えてもらいました。何回か参加したけど「女性だし危ないから」って私はまったく触らせてもらえなかったんですが…(笑)私もやりたいって思うようになりました。

キャンプで焚き火を囲む三宅さん親子

キャンプを好きになったのは、スポーツ系の専門学校時代に体験したキャンプ実習がきっかけとのこと

 

——その後移住して実際に林業をされるわけなんですが、すごく大きな決断ですよね?

身体を動かすのが好きで、前職は高齢者の体操教室とかデイサービスで体操の先生をやっていました。でも自分が動くのは楽しいんですけど、人前に出るのがすごく苦手で結構なストレスが溜まっていて…体操教室はみんなで脈を測ったりするんですけど、心臓がバクバクで自分がいちばん高いんですよ(笑)それに受講される方の年齢的にも、少し前まで元気だったのに亡くなってしまう方もいて、だんだん辛く感じるようになりました。

その時期にちょうど前の結婚生活で悩んで、病んでしまったんです。寝れなかったり、薬を飲んでる時もありました。そんな時に妹が声をかけてくれて、たまたま林業と出会って。

——佳奈恵さんにとって辛いことが重なっていた分、やりたいことがより鮮明に見えたのかもしれませんね。

そうですね。でも林業の会社はどこも雇ってくれなくて、その時に白川町の募集がありました。当時まだ年少だった娘と辛い環境から逃げてきたようなものでしたけど、思い切って来て良かったと思いますね。

仕事は毎日楽しい。自然のなかにいると周りに何もなくて、鳥の声とか川の音、せせらぎを聞いていると落ち着く。焚き火もずっとやっていられます。

なんか、イキイキするんですよね、山にいると。何でそんなに良いのかって聞かれると分からないけど、ここにいると元気になる。学生の時キャンプ場でバイトしていて、その時も自分はすごいイキイキしてたし、こういう環境が向いているんだなぁと思います。

仕事の休憩中の様子

仕事の休憩中の様子。「仕事中の焚き火が楽しくて楽しくて。午前と午後に30分、お昼に1時間半の休憩があってそこで焚き火をしているので、1日3時間ぐらい焚き火してますね(笑)」

 

「山を守って未来に残したい」

——実際にお仕事以外でもこうやって山を整備したり、木工製品をつくるなど、幅広く山や林業と関わっていますよね。

私はきっと趣味が仕事になるタイプですね。

林業をやっていて手に入る材料で、いろいろつくっています。一番の大作は、みっちゃんの学習机です!ものづくりしてる時は黙々と集中してやれるから、それが癒しの時間になる。

この前もそこの橋をつくったんですよ。三宅家がみんなでここに遊びにきた時に、家族総出でロープを引っ張って木を倒したんです(笑)

娘さんの学習机

娘さんの学習机は、材木の切り出しからご自身の手によるもの(ご本人提供)

 

——まさに自然の中での暮らしを満喫していますね!個人的にお聞きしたかったんですが、こうやって林業や山での活動をされていると、”若い女性”ということで周りから期待されることや注目を浴びることもあると思うんです。「人前に出るのが苦手」という話もありましたが、そういったものについて感じるところはありますか?

協力隊の1年目の時に、すごく太いヒノキをたくさんの見学の人の前で切り倒すっていうのを言われてやったことがあって。うまくは倒せたんですけど、すごい緊張しました(笑)

そういうのがしょっちゅうだったらしんどいけど、まあたまになら…(笑)自分がたくさんの方に、山を守ることの大切さを伝えられたらそれでいいのかなって思います。

ただ「女性なのにできる」っていう評価のされ方は、プレッシャーというか…私よりすごい人はいっぱいいるのにって思っちゃって。言葉では上手く言い表せないんですが、もやもやして引っかかる部分ではあります。

——自分も同じ環境にいれば、そういった評価をしないと言い切れないような…どうしても男性のイメージが強い職種で、無意識にそう考えてしまうのかもしれません。

性別というよりは個人の特性だと思います。重機操作や伐倒、運搬など、林業にはいろんな役割があって、人によって得意不得意がある。その得意なことを活かしつつ、でも人員や状況によってオールラウンドにいろんな仕事をこなしていかなきゃいけない。

木の1本1本で条件が違うから、どうやったら安全に効率良くできるか、経験と感覚が大きいですね。

伐倒作業を行う佳奈恵さん

佳奈恵さんについて、現場を共にする方は「木を切るのも重機を動かすのもすごく上手。今白川町でいちばん木を切ってるんじゃないか?」と語ります(ご本人提供)

 

——改めて聞くとすごい仕事ですよね…!命の危険も伴い、それでいて常に条件が違う木と向き合う。やっていてどういう瞬間がいちばん魅力的ですか?

木の傾きや枝の張り方はもちろん、搬出経路も考えながら切る方向を考えたり、その場で切る人が経験や感覚から判断します。だからこそ、自分の狙い通り綺麗に伐倒できた時は嬉しいですね。

あとは、作業の前後です。今日1日これだけ頑張って切って、山が明るくなった達成感。もうその1日で山の様子がまったく違うんですよ!真っ暗で薄気味悪かった森が、陽が入って明るくなる。それは魅力ですね。

——既にたくさんの活動をされている佳奈恵さんですが、今後のやっていきたいことをお聞きしたいです。

この山で、みんなで間伐体験をしたりして整備していきたいですね。間伐して、広葉樹を植えて、しいたけの原木になるような木も植えたいです。

山が豊かになれば川から海までぜんぶ豊かになる。みんなで山を守って未来に残していきたいです。

自作の橋を渡る三宅さん親子

 

白川町は面積の9割近くが森林で、環境を守り続けていくことは暮らしと密接に繋がっています。そこに自分がどれだけ関わり、貢献できるのかは分かりませんが、少なくとも関わる意志を持ち続けなくてはいけないんだと思います。

素直で実直な言葉で語ってくれた佳奈恵さんは、きっと今日も山の中にいます。

 

【三宅 佳奈恵さん

出身   :岐阜県御嵩町

職歴  :運動指導者、キャンプ場スタッフなど

趣味  :キャンプ、工作

読んでくれている人に一言  :山に目を向けてみて!山は私たちにたくさんの恵みを与えてくれるかけがえのない存在です。

 

取材年月:2025年3月 

【きこりおやこ】

三宅佳奈恵さんの活動の様子はこちらから

https://www.instagram.com/kikori_oyako/

  • 取材執筆/写真:

    澁谷尚樹

  • 監修:

    白川町役場振興課

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