縦向きにしてください

「利用者が楽しく幸せに過ごせるように」

55歳から飛び込んだ福祉の世界で支える『一人一人の目標』

東白川村在住の佐藤克行(かつゆき)さんは、蘇原地区の切井にある就労継続支援B型事業所*の『作業所きらりきりい(以下:きらりきりい)』に勤めています。

*障がいのある方が、一般企業に就職することに対して不安があったり、就職することが困難だったりする場合に、雇用契約を結ばずに生産活動などの就労訓練を行うことができる事業所。働く場所や居場所を求める人たちへの支援を行っています。

 

自分のやりたかったことに挑戦するため、55歳という年齢でまったく新しい業種に転職した克行さん。

「楽しいし、やりがいもある。後悔はひとつもないですね。利用者のためになることをして、少しでも長く良い関係性を築けたら良いと思います」

 

新しいことに挑戦する克行さんの想いや、白川町への印象などをお聞きしてきました。

 

障害福祉サービスを「本当に利用したい人が利用できるように」

——2024年から『きらりきりい』で働き始めたとお聞きしました。今のお仕事について教えていただけますか?

利用者さんを送迎したり、相談に乗ったり、作業のサポートや雑務をしたり、自分にできる限りのことは何でもします。

ここにはいろんな人がいて、みんないろんな悩みを持っているんです。送迎車のなかで自分にだけ悩みを打ち明けてくれることもある。一人一人に向き合って接するのは大事だと思うし、それがやりがいにもなっています。

——利用者の方は「作業」を中心に1日を過ごしているんですね。

町内の企業様の内職がメインですね。

他にも「自主作品」と言って門松やつまみ細工をつくったり、農園で畑を耕したりして、利用者の方が規則正しい生活をして自立することを目指しています。

窓際に飾られている自主作品の一部

窓際に飾られている自主作品の一部

 

—–いろんな活動をしているんですね。よく建物の前を通りますが、中の様子はまったく知りませんでした…!

こういう作業所は、内情を知らない人から良い印象を持たれないことも多いんですよ。先入観とか、世間的なイメージだったりとか…でも関わってみると、その印象がぜんぜん違うことが分かるんです。本当に利用したい人が気軽に利用できるように、少しでも印象を変えたいですね。

お話する克行さん

「なるべく元気に、長く働いていたい」と語ります

 

55歳で見つけた「やりたいこと」

——-そもそも克行さんが『きらりきりい』で働き始めたのは、どういった経緯があったんでしょう?

前職は30年以上、東白川村にある建築関係の会社でオペレーターの仕事をしていたんです。実家からも近いし、職場の人間関係にも恵まれていたので、すごくありがたい職場でした。

「どうしてもこの仕事がしたい!」というのがなかったから、慣れ親しんだ地元で自分を必要としてくれてるところで落ち着いた、という感じでしたね。

——30年以上ですか…!それだけ長く働いた会社を辞めるというのは、すごく勇気がいることだと思います。

でも、元から「人と関わる仕事がしたい」っていう気持ちがあったんです。

前職は指示された内容をパソコンに打ち込む作業がメインで、コロナ禍とかいろんな環境の変化も重なって、だんだん元から持っていた気持ちが強くなっていきました。

その時に奥さんが『きらりきりい』での仕事を始めて、家でその話をするようになったんです。

『きらりきりい』で,利用者の方々が作業している様子

『きらりきりい』で、利用者の方々が作業している様子

 

——転職のきっかけは奥さんだったんですね!

それで話を聞いていたので「『きらりきりい』でなら、自分にも役に立てる”人と関わる仕事”があるんじゃないか」って思うようになって、やってみたい気持ちがより強くなっていきましたね(笑)

でもそこから2、3年はどうするか考えました。長くお世話になった会社を辞めるのは、迷惑もかかるし申し訳ない。

——それは悩みますよね…

うん、でも「人と関わる仕事に挑戦したい」って1回思っちゃったからね(笑)その気持ちはずっと消えなかったし、それに年齢的なことを考えてもやるなら今しかないかなって。

上司に相談したら「ものすごく困るけど、でもお前の人生やから好きにやるのもいいんやないか?」って言ってくれて、思い切って55歳で転職しました。

この歳にして、初めて自分で「やりたい」と思って選択したことかもしれませんね(笑)

お話する克行さん

「前職は歩いて5分の場所だったから、少し遠くに通勤もしてみたかった(笑)」

 

——いろんな経験を積んだからこそ、やりたいことが見つかったのかもしれませんね。

良いように言えばそうかもしれんね(笑)

実際にやってみたら、利用者の方と一人一人しっかり関われるし、楽しくてやりがいもあります。後悔はひとつもない!

 

利用者がそれぞれの目標に向かって、楽しく幸せに過ごせるように

——「人と関わる」という、まさに克行さんが求めていた仕事ですね。

ただやっぱり、難しさはあります。

利用者によって障がいの重さや個性がぜんぜん違う。それによって関わり方だったり、目標も違ってくるんですよ。

作業で、竹に穴を開けて竹明かりをつくっている様子

利用者により、さまざまな作業に取り組みます。こちらは竹に穴を開け『竹明かり』を制作しています

 

——目標も、ですか。

もちろん利用者の方が『きらりきりい』を卒業して、一般就労できるのがいちばん良いですよね。僕が入社してからの期間でも既に2人卒業して一般就労されたので、それは本当に嬉しいし良かったと思います。

でも障がいの重さが理由だったりで、それが難しい人もいます。

天気が悪いと辛くなって家から出られない人や、コミュニケーションがなかなか取れない人もいる。その人たちがどうやったら楽しく過ごせるか、日々考えながら過ごしていますね。

——世間的には分かりやすいステップアップが良しとされることが多いですが、多様な人がいるこの場所では必ずしもそうではないんですね。

そうですね。みんながみんな同じ目標じゃなくて、それぞれの目標に向かっていけるようにサポートしたいですよね。利用者が楽しく幸せに過ごせるのが何より大事だと思うので。

——たしかに…

クリスマスにサンタクロースをやったり、節分の日に赤鬼青鬼をやったりすると利用者の方はめちゃくちゃ喜んでくれる。心が純粋で、感情表現が豊かなんです。

素直に気持ちを表現している様子を見ると、自分が教えられることもたくさんあります。大人になると「こうなるのが嫌だから、やめとこう」とか、そういうこと考えちゃうじゃないですか(笑)

『きらりきりい』での節分の日の様子

『きらりきりい』での節分の日の様子をまとめたもの。克行さんは赤い鬼のお面をかぶっています(ご本人提供)

 

「福祉の町」白川町に貢献する

——お仕事を中心に、これから克行さんが白川町で活動することも増えると思います。白川町に対してはどんな印象がありますか?

昔、息子が白川町の少年野球に通ってたので、そこから白川町の人と深く関わるようになりました。僕もスコアラーをやったりなんかして、ほんとに面白かったです(笑)だから当時は白川町はそれぞれの『人』の印象が強かったですね!

でも今回『きらりきりい』で働くようになって、また少し印象が変わりました。

ベンチでスコアラーをする克行さん

ベンチでスコアラーをする克行さん(ご本人提供)

 

——その変わった印象というと…?

ほんとに福祉が手厚いなって思いますね!福祉に関する施設もたくさんあるし、それによって雇用も生まれてる。僕もその一端を担わせてもらってます(笑)

それにデマンドバスの『おでかけしらかわ』もすごいですよね!隣村の人間からすると、すごく羨ましいです…!

そういう面から見ても、白川町は「高齢になっても安心して暮らせる町やなぁ」って印象がありますね。

『きらりきりい』の付近の様子

『きらりきりい』の付近の様子。手前にあるのは、利用者の方々で耕している畑です

 

——そう言ってもらえると、住んでいる人間としてはとても嬉しいです!新しい環境に飛び込んだばかりですが、克行さんが今後していきたいことはありますか?

とにかくまだまだ覚えることがたくさんあるので、勉強して何かちょっとでも『きらりきりい』の為になれば良いかなと思ってます。

それに就労継続支援について知らない人も多いと思うので、この記事を通して僕のことを分かってもらって、それをきっかけに『きらりきりい』のことも知ってもらえればと思います。それがまた、白川町の福祉に貢献することにも繋がれば良いですよね。

『きらりきりい』の看板

 

「これまでほんとに人には恵まれてきた」と過去を振り返った克行さん。

目の前の一人一人と向き合い尊重するその姿勢には、これまでのたくさんの繋がりが含まれていて、それはこれからの白川町の福祉に繋がっていくんだと思います。

 

【佐藤 克行(かつゆき) さん

出身   :東白川村

学校   :加茂高等学校

職歴  :株式会社日本デンソー、東濃ひのき東白川プレカット協同組合、作業所きらりきりい

趣味  :ゴルフ、アウトドア

読んでくれている人に一言  :白川町のために頑張ります!

 

取材年月:2024年2月

【作業所きらりきりい】

〒509-1111 

岐阜県加茂郡白川町切井 日影1390-1

TEL:0574-73-1020

 

【NPO法人いきいき】

HP→https://ikiiki-net.info/index.html

  • 取材執筆/写真:

    澁谷尚樹

  • 監修:

    白川町役場企画課

つづけて読む

ABOUT

家を『屋号』でよびあう慣習が根づく白川町そんな町の想いを集め人と集落と未来をつなぐ