縦向きにしてください

「流れに身を任せて生きる」

創業から43年変わらないメニューは『”観光の味”から”地元の味”へ』

1981年の創業時と、今もほとんど変わらないメニューを提供する『コーヒー&レストラン七曲(ななまがり)』

マスターの森 基広(もとひろ)さんは、観光客で大盛況だった創業当時も、地元の常連さんに支えられる今も、変わらない日々を過ごしています。

 

「流れに流されて、ここまできただけ(笑)」

 

そう語る森さんのこれまでについてお聞きしてきました。

1日600人が来店した、怒涛の日々

——広々とした喫茶店の雰囲気で、すごく落ち着く空間ですよね。

創業してもうすぐ43年になるけど、内装もメニューもほとんど当時のままやね。

30年ぶりぐらいに偶然お店に立ち寄って「何にも変わっとらん」って言う人もおった(笑)周りはお店が無くなったりして、けっこう変わっちまったからね。

店内の様子

開業当時からほとんど変わっていないという、店内の様子

 

——それだけ長い期間変わらずに経営を続けるのは、すごいです…!そもそも森さんが『七曲』をオープンしたのは、どういった経緯なんでしょう?

元々『七曲』ができる前は親父がドライブインのお店をやっていて、大学を卒業してからそこで働くようになったんよ。「長男やから帰ってこい!」ってずっと言われていて、他にやりたいこともなかったし、仕方なく(笑)

—–そうだったんですね。すいません、ちなみにドライブインというのは…?

あ、今の人は分からんね!ドライブインは、、なんや…うん。

——、、、

なんというか、お土産もあるし食事もあって、道の駅の前身みたいな感じやね。その頃はドライブイン*が全国的にもいっぱいあったもんで。

そこで和食も中華も、珈琲も提供しとった。

*幹線道路に面して立地している休憩所。飲食店や土産物店が併設されており、車で比較的長距離を移動する人の休憩や食事の場として機能する場所

 

笑顔の森さん

「親父はその後町会議員になったりもしたから、お店をおれに任せて、やりたいことがいっぱいあったんやろうね(笑)」

 

——なるほど…まさに今の『七曲』のルーツという感じですね!そこからお店を出すきっかけはあったんですか?

いや、特に(笑)ドライブインも盛況やったし、その流れで「すぐ隣の空いている土地にお店を出そう」と開業した感じやね。

開業当時はモーニングの朝7時からオープンして、21時までやっとった。(※現在は16時閉店)

あんまり何かを考える暇もないぐらい忙しくて、多い時は月に1万2千人ぐらい、1日に500~600人ぐらい来客しとった。従業員も8人おったよ(笑)

——え!!?ちょっと今だと想像しづらい人数ですが、そんな時代があったんですか…!

8割近くは通りがかりの観光客やったね。

『七曲』を開業してからはドライブインの場所を他の店舗に貸してて、そこに観光バスが停まるんやね。そのお客さんがうちにも来て、立ち飲みのような感じで過ごして「もうバスが出発するから!」って慌ててガラスをドーンって割って出て行ったり(笑)そんな時代やった。

笑顔の森さん

「今はずいぶんと長閑やね(笑)」

 

開業当時から変わらないメニュー

——-今はのんびりと過ごせる”地元の方の憩いの場”のような雰囲気なので、なんだか真逆のような気がします(笑)

他には高校を卒業して就職した若者のたまり場になったり。まあその人らも今は60歳ぐらいになっとるけど(笑)

——環境は大きく変わっていますが、提供しているものは変わっていません。そこは森さんのこだわりがあったりするんでしょうか?

それも、流れに任せているという感じやわ(笑)

最初の10年ぐらいは新しいセットメニューをつくったり、いろいろやったけどね。でもお客さんも少なくなってくるし、だんだんめんどくさくなって…(笑)

日替わりランチ

平日限定の日替わりランチはなんと630円!

 

——森さんが心地良くできる範囲に収まっていったんですね(笑)

そうそう(笑)

新しくつくったメニューがなくなったから、当時からほとんどメニューは変わっていない。それにここ何十年間は毎日の生活もまったく同じやね(笑)

朝6時に起きて、6時半ごろにここに来て、7時に開店してから16時の閉店までここにいる。それで家に帰ったら1杯飲んで(笑)

——周りの環境がどんどん変わっていくなかでずっと変わらず『七曲』があるのは、地元の方にとってはすごく嬉しいですよね。

同じことを続けるっていうのは、大変やわ。でも、別にすごいことでもない(笑)新しいことを始めたり、それを続ける気力が自分にはなかったというか…きっと真面目じゃなかったんやね(笑)

これからもそうやって流れに身を任せながら、元気なうちはこのまま続けていきたいと思う。

笑顔でお話する森さん

「夜に来てくれるお客さんが減って、21時閉店が18時、16時とだんだん短くなっていった(笑)」

 

天国に一番近いカフェ

——自分が続けられることを、きちんと続けていく。それが、時代や環境の流れと合致したのが『七曲』なんですね。『七曲』と言えば、Googlemap上に「天国に一番近い喫茶店」と記載されていますがこれは一体どういうことなんでしょうか…?

お客さんにもよく聞かれるけど、あれは息子が勝手にやった(笑)

葬儀場がお店のすぐ目の前にあるからっていう理由で、勢いで書いて。説明欄に「店主が天に召されるまで営業予定。」とかも書いてあるやら?(笑)

 

——そういう理由だったんですね(笑)町内でも気になっていた方はきっと多いと思います。

まあ、お店のことを気にかけてくれるのは嬉しいね。

今はいつも来てくれる地元の常連さんもいるし、続けられるだけ続けていこうと思う。そんな感じやね。

「コーヒー&レストラン七曲」の看板

 

「流れに任せてるだけで、欲も特にない(笑)元気なうちはお店を続けるね」

そう語った森さん。

力の抜けたその姿勢と佇まいが、話を聞いているこちらまで安心させてくれる。現状を受け入れ、自分にできることを43年間やり続けた先にある今の『七曲』は、とても落ち着ける空間でした。

 

【森 基広(もとひろ) さん

出身   :白北

学校   :名古屋学院大学

職歴  :飲食

趣味  :ゴルフ

読んでくれている人に一言  :ぜひお店に来てください。

 

取材年月:2024年3月 (記事中の年月、金額は取材当時のもの)

【コーヒー&レストラン七曲】

〒509-1106

岐阜県加茂郡白川町坂ノ東6135

TEL:0574-75-2002

 

営業時間:7時~16時

定休日:日曜日

  • 取材執筆:

    澁谷尚樹

  • 写真:

    澁谷尚樹 / 樋口彩

  • 監修:

    白川町役場企画課

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家を『屋号』でよびあう慣習が根づく白川町そんな町の想いを集め人と集落と未来をつなぐ