白川町の公共交通機関『おでかけしらかわ・ひがししらかわ(以下「おでかけしらかわ」)』の運行管理者である、蘇原地区出身の佐藤久仁(さとうひさひと)さん。
『おでかけしらかわ』では、決められたバス停を通る”定期バス”だけでなく、利用者の都合に合わせて運行する通称”予約制バス”(自家用有償旅客運送*)を組み合わせることで、車がなくても生活できる町を実現しています。(ヤゴーシラカワでは以前「公共交通バスを使って中学生とイオンに行く」際に、バスを利用させていただきました)
*バス、タクシー等が運行していない過疎地域において、住民の日常生活における移動手段を確保するため、登録を受けた市町村(NPO法人等)が自家用車等を用いて有償で運送するサービス
「白川町を、周りから憧れられる町にしたい」
食料品の移動販売を経験したことで気づいた地域での移動手段の重要性。『おでかけしらかわ』が誕生した経緯や、佐藤さんが目指すこれからの白川町についてお聞きしてきました。
移動販売を通して気づいた課題
——取材で僕も『おでかけしらかわ』を使わせていただきました。予約制バスがあるおかげで、本当に使いやすいです。
以前は決められた路線を走る定期バスだけだったんです。
毎日走ってるそのバスを利用する人は少なかった。それなのに、移動に困ってる人はたくさんいたんです。
——たしかに定期バスだけだと、車を運転できない高齢者などは、そのバス停に行くことすら難しい場合もありますよね。
それに気づいたのは、以前僕が食料品の移動販売をしてた時なんですよ。
–—–まったく別のお仕事をされていたんですね!
実家が蘇原地区にある『一力屋(昭和23年創業。食料品小売や惣菜製造などを行っている)』なんです。
「まあ長男やしいつかは実家を継ぐやろう」と思ったから、高校卒業後は名古屋の食品店で働いて、祖父が亡くなった時に戻ってきました。
——それで移動販売を担当されていたんですね。
週に2回ぐらい同じ地区に行くんです。そうすると、車に乗って買い物に行けない高齢者の方が集まって買ってくれる。
でもだんだん身体が弱って、家からその販売場所にも行けなくなる人が出てくるんです。
——白川は同じ地区内といっても広いですし、特に高齢者の方にとっては徒歩移動は大変ですよね。
1人で住んでる人だと、食べる物がなくなっちゃうでしょ。かわいそうだし、次はその人の家まで行くわけですよ。でもそうしてるとものすごい時間と労力が必要になる。
それにそもそも食料しか提供できない僕には、移動に困ってる人たちの要望をすべて満たすことができないんです。
——たしかに、仮にそれぞれの家を回っても根本的な解決にはならない…
「もっと移動販売の範囲を拡大して欲しい」っていう声もあったけど、それは今後も続けていけるやり方じゃない。もっと違う方法を考えないといけないと思いました。
それで、役場に話をしに行きました。親身になって話を聞いてくれて、いろんな提案をしてもらいました。
そうやって少しずつ『自家用有償旅客運送』の制度を形にしていきましたね。
町の課題を後世に残さないための決断
——課題の根本的な解決をするために、ゼロからの立ち上げだったんですね。
スタートした最初はほんとに大変やったね。予約の電話を受けて、鉛筆1本、紙が1枚で必死に対応するみたいな(笑)
予約表の作成から、運転手の管理や受付まで、手さぐりで進めながらだんだん「あ、こうしていけばいいんや」って今の仕組みになっていった。
——それが今では町に欠かせない交通インフラになっています。
最初の受付は1ヶ月で100件なかったと思うけど、今では1000件を超えてる。
僕も運行管理がメインの仕事だけど、たまに運転するんですよ。そしたら昔から使ってくれるお客さんは「なんや今日はお偉いさんが乗って!何かあるんか!?」って話しかけてくれたりする(笑)
ほんとにね、お客さんとドライバーが良い関係性やなぁって思う。
——きっと地道に、人と人の関係性を佐藤さんが築いてきた結果ですよね!でも「跡継ぎとして帰ってきて別の仕事をする」というのは周囲の方も止めなかったですか?
移動販売を辞めることにもなったから、みんなから「困る」って言われたし、お客さんには申し訳ない気持ちもあった。でも根本的な”移動”自体に問題がある。ほとんどが買い物に行けない高齢者の人たちで「なんとかあの人たちが移動できるようになればいいなぁ」ってずっと思ってた。
——仮に目の前の人が悲しんでも、根本的な課題解決を目指したんですね。
困っている人がたくさんいるのに、公共交通機関の利用者は少ない。「この矛盾をなんとかしないといけない」っていう強い気持ちが生まれて、『おでかけしらかわ』に携わる決断をしたね。
人口が少なくなって、昔と比べると今はたくさん町の課題がある。人口減少はこれからも続くし、このまま課題が解決されずにずっと残っていくと「昔の人はもっと何とかできたやろう…」って、課題を残された子どもたちは思うやろうなって。
だからこそ、何とか町のためになることをやろうって思ったね。
今ね、野望があるんです。
白川町を「憧れられる町」に
——野望、ですか。
一からつくりあげてきた今の仕組みを、同じ境遇にある別の市町村でも取り入れてもらいたい。
そうすることで『全国から評価される「おでかけしらかわ」』になるし、周りからの評価を受けることで、いっしょに取り組んでくれた従業員や協力してくれた役場職員の方と達成感を味わいたい。
白川が、他の町の人に憧れられる町になったら良いよね。
——良いですね、憧れられる町!
人口減少が問題視されてるけど「少ないから不幸」ってわけじゃない。
しっかりと生活を送れる基盤があれば、住んでる人も満足するし、ここに来てくれる人も増えると思うんよね。
——人口が減ると『生活の基盤』が揺らぐから問題視されるのであって、きちんと安定した基盤があれば幸せな生活を送れる、と。
だからこそいつも、ライフラインの一部として安定的に同じ質のものを提供できるようにしてる。
僕ね、目標を具体的に、リアルにイメージできるようになればぜったい達成できると思うんよ。だから今すごくワクワクしてる。野望は達成できると思ってるし、仕事に打ち込んでるね。
白川は良いところやからね。みんなに「良いね白川は」って思ってもらえるようにしたい。
「今はやりたいことだらけ!最高やね」
思い描く理想が具体的になればなるほど、ワクワクする佐藤さん。
真っすぐに語られるそのお話を聞いていると、こちらまで同じ理想を想像して、将来の白川町にワクワクしてきます。
【佐藤久仁(さとうひさひと) さん】
出身 :蘇原地区
学校 :美濃加茂高等学校
趣味 :仕事
読んでくれている人に一言 :やりたいことは今すぐやろう
取材年月:2023年10月