縦向きにしてください

「できないことがあってもいい」

好きが詰まった洋服を通して気づいた『ありのまま』

白川町にあるデイサービス『かわまた茶寮』で看護師として勤めながら、ご自身で服のデザインをするのが趣味という安江あくら(やすえあくら)さん。現在は地元の佐見地区で暮らしています。

 

笑顔で洋服について語り、自分が好きなことを全身で楽しむその背景には、他人に弱みを見せられずメンタルを崩した時期もありました。

 

たくさんの経験を経たからこそあくらさんが気づいたことを、お聞きしてきました。

 

自分の好きが詰まった洋服に、夢中になる

——あくらさんは現在、お仕事の他に洋服のデザインやコーディネートもされているんですよね。そのきっかけは何だったんでしょう?

ある時SNSで見た『インド刺繍リボン』に一目ぼれして「これを使ってお洋服をつくりたいな」と思って初めてデザインを考えました。それが予想以上に楽しかったんです!

自分では縫えないので、1着からでもつくってくれる洋裁店を探すために何十軒も電話して、愛知まで行ってつくってもらいました。

自分でつくった洋服を持つあくらさん

左の黒い洋服が、あくらさんがつくった1着目。袖部分には「一目ぼれした」と言うインド刺繍リボンが!

 

——すごい行動力です!

いざそのお洋服を形にしてもらって着た時の喜びは、忘れられないです。

自分の好きが詰まったものを身につけられる喜びをすごく感じましたね!

—–「好きが詰まった」という表現にあくらさんの気持ちを感じます!元から洋服がお好きだったんでしょうか?

小学生の時からお洋服が大好きで、服が載ったデパートのチラシをよく隅から隅まで見てましたね(笑)

——ルーツはデパートのチラシなんですね(笑)

以前はアパレル店員をしていた時期もありました。

お客さまから「この前選んでもらったお洋服すごい良かったです」って声をかけてもらったり、あとはシンプルに可愛いお洋服に囲まれているのが幸せでしたね。

 

元々特に得意分野もなく、自信を持てるものがなかったんですけど「お洋服を通して何かしたい」と思うきっかけになりました。

実際のデザイン画

実際のデザイン画。自分の意見だけに偏らないように、図書館でもたくさん調べ物をするそう

 

——実際に「好きなこと」に触れることで、どんどん新しいやりたいことが増えていったんですね。

そうですね。やっぱり好きなことって時間を忘れてできるんです。今の職場は図書館のすぐ近くなので、よく図書館に通って洋服の本を見て調べている時期もありました。

そこでめっちゃかわいいポーランドの民族衣装を見つけて、自分も着たくてSNSでポーランド在住の日本人の方と知り合って、現地の方に刺繍してもらえることになったりもしました(笑)

 

そうやってご縁を繋いでくださる方や、お洋服をつくってくれる方と出会うことで、世界が広がりましたね!

現地の作家さんに刺繍してもらったというポーランドの民族衣装

現地の作家さんに刺繍してもらったというポーランドの民族衣装。SNSで知り合ったポーランド在住の日本人の方には、日本帰国時に実際に会いに行ったとか

 

——お話を聞いていると、あくらさんはまさに『好き』に真っすぐという感じがします!

今はそう見えるかもしれないけど、まさか自分が服をつくるなんて思ってもなかったです(笑)

 

昔からあんまり人に弱みを見せられるほうじゃなくて…完璧主義で、周りから良く思われたかったんです(笑)

だからお洋服に関わるまでは「自分の好きなこと」よりも、人からどう見られるかとか、世間からの評判のほうが自分にとっては大事でした。

——そうだったんですか!僕も人目が気になることが多いので、その考えはすごく分かります。

そういうことも影響して、アパレル店員をする前にはメンタルを崩してしまった時期もありました。人前に出て話したり、緊張する場面が怖くなってしまって…

でもその辛い時期もお洋服に対してだけは自分の心が動いているのが分かって、思い切って実際に関わってみたらすごく私を支えてくれました。

 

勇気を出して見せた『ありのまま』

——現在、お仕事はデイサービスで看護師をされているんですよね。

はい、社長がご近所さんということもあって、5年ぐらい前に誘っていただいたのがきっかけです。仕事内容としては介護が中心ですね。

看護師免許は持っているけど、介護に関わるのは仕事として初めての経験でした。

仕事中のあくらさん

笑顔で働いている様子が印象的でした

 

——実際に働かれてみていかがですか?

最初は慣れない部分もありましたね。介護は体力的にしんどかったり、高齢者の方とのコミュニケーションの取り方が分からないこともありました。

でも今では自分から利用者さんの元へ行って話を聞くのが大好きです!好きが高じて「高齢者の方にネイルをしてあげたい」っていう気持ちになって、ケアビューティストという資格も取りました。

——洋服のように、好きなことに触れてやりたいことがどんどん増えていったんですね。

「マニキュアなんて初めてしたわ!」って喜んでくださる方も多くて嬉しかったです。

——実際に喜んでもらうと、より嬉しくなったりご自身の自信にもなりますよね!

そうですね。

それに働く時、職場の方に「人前に出て話したり緊張する場面が苦手です」と伝えたら「できないなら代わるからぜんぜん大丈夫だよ」ってみんなすごい優しく受け入れてくれたんです。

以前は完璧主義でなかなか人に相談できなかったんですけど「できないことはできないって言っていいんだ!」って、その時初めて実感しました(笑)ほんとに嬉しかったですね。

ネイルをした様子

爪に優しい水性のマニキュアを使っているため、落とす時もお湯で簡単に落ちるそう(ご本人提供)

 

——あくらさんが勇気を持って行動に移したからこその気づきですよね!

まだ苦手なことはたくさんあるけど、そういう私の苦手なことに理解がある職場だから、肩の力を抜いてたくさん笑って働くことができてます。ほんとに感謝しかありません。

だからこそ私にできる仕事は代わったり、そうやってお互いに助け合って働いている環境が心地良いです。

人ってできないことがあるのは当たり前で、助け合って生きていくんだなってやっと気づくことができましたね。気づくの遅いですよね(笑)でも今、気づけて良かったです。

あくらさんが実際にネイルを施している様子

高齢者の方にネイルやメイク、エステなどを行う『ケアビューティスト』の資格を取り、実際にネイルをしている様子(ご本人提供)

 

『好きなこと』がくれる自信と勇気

——「できないこと」があるからこそ、心地良い関係が生まれていくんですね。

お洋服に自信と勇気をもらって職場で弱みを口にすることができて、みんながそれを受け入れてくれて、こうやって楽しく生きていけています。

——好きなことがくれた自信と勇気が、別の行動にも繋がっていったんですね!

この記事ができたら、メンタルを崩していた時の自分に見せてあげたいですね(笑)

「できないことがあってもいいし、弱みを見せても大丈夫」って伝えてあげたいです。

——同じように今辛い思いをしている人にも届くといいですよね。最後に、あくらさんがこれからやっていきたいことはありますか?

これからもお洋服をつくり続けて、いつかは高身長の人のためのお洋服もつくってみたいですね!私が身長170センチあることもあって、なかなか身長の丈が合わないことがあるんです。

 

あとは、地元の佐見地区でキャンドルナイトをやりたいなって思ってます!夜、田んぼのあぜ道にキャンドルを灯すイベントで、きっと佐見でやるとすごく綺麗だと思うんです!

——佐見でのキャンドルナイト、楽しみです!地元での活動も考えられているんですね!

めっちゃ好きです、白川町。

近所の人の優しさとか、自然の豊かさとか、魅力がたくさんありますよね。散歩をしてたら声をかけてくれたり、私が大好きな鮎を焼いたら家に呼んでくれたり(笑)

子どもの頃たくさん遊んだ山と川もそうだし、いろんなものがホッとする場所です。

安江あくらさん

 

自分の好きなことに気づき、周りよりも自分自身のことを大切にするようになったというあくらさん。

前向きに自分のやりたいことを語ってくれたあくらさんは、とても強く輝いているように見えました。

 

【安江あくら さん

屋号  :ほき

出身   :佐見地区

学校  :岐阜医療科学大学

職歴  :保健師、アパレル店員、看護師、スタイリスト、など

趣味  :洋服デザイン、カフェ巡り、古着屋巡り、散歩、自然散策

読んでくれている人に一言  :白川町の自然豊かな景色が大好きです。

取材年月:2023年08月 

  • 取材執筆/写真:

    澁谷尚樹

  • 監修:

    白川町役場企画課・Anbai株式会社

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家を『屋号』でよびあう慣習が根づく白川町そんな町の想いを集め人と集落と未来をつなぐ