縦向きにしてください

「自分で考えて動ける人に」

自由な校長先生がつくる『自主と創造と可能性』を引き出す学校

白川町出身で、2023年4月からご自身の母校でもある白川中学校の校長を務める太田紀宏(おおたともひろ)先生。

 

生徒と教職員が英語だけを使って1日を過ごす『オールイングリッシュデー』や、夏休みに使用されていない白川中学校のグラウンドをキャンプ場として開放する『学校でキャンプしよう!』を開催するなど、

子どもたちの可能性を広げるため、さまざまな新しい企画を実施する太田先生。

 

「面白い校長先生がいる!」と白川中学校の先生方からのご推薦で始まった今回の取材。さっそくお話を伺ってきました!

 

ひとりひとりが考えて動ける学校を

——今年度から赴任されたとお聞きしましたが、すぐにたくさんの新しい企画を行われているんですね!

子どもたちの興味や可能性はどこで引き出されるか分からんし、教員の仕事はそういうチャンスを与えることやと思う。

自分が「本当に知りたい!やりたい!」と思えば自分から動くようになる。子どもたちにはそうやって、自分で考えて動ける人になって欲しい。

——自分で考えて動ける人、ですか。

AIやロボットも出てきて、これからは言われたことをやってるだけでは通用しなくなる。

生徒会の子どもたちにも「積極的に自分たちのアイデアで学校を変えていって良いよ」と伝えている。

興味を持って自ら取り組む『自主』と、行動によって自ら切り開く『創造』が大切やね。

サイコロや知恵の輪がたくさん置かれた校長室にある机

校長室にある机の様子。「些細なものでも子どもたちとの会話のきっかけになる」

 

—–子どもたちの興味や可能性が引き出される「刺激を受けられる」環境と、それを「行動に移せる」環境を用意しているんですね!

そう、だからいろんなものがここに置いてある。野球のバットやパズルとか、廊下には本が置いてあったりする。

——子どもたちが常に五感で刺激を受けられる状態ですよね!

もうすぐ中学校のグラウンドを解放してキャンプをやる。

子どもたちにも「あ、こんなことしていいんや!」って刺激になってくれたら良いなと思うね。否定からはなかなか自分なりの発想は生まれないし、楽しくないから。

キャンプ当日の様子

キャンプ当日の様子。「教育委員会に話に行って、キャンプ実施について2時間ほど議論して、実施に向けての後押しをいただいた」

 

——たしかに先生が自由に新しいことを始めていると、子どもたちも楽しくなっていきそうです!

そう、だから教職員も「自分で考えて動ける人」であってほしい。

職員室前には、それぞれの教員の顔写真と「白川中学校をどういう学校にしたいか」についての宣言を提示している。

 

「自分ならどういう学校にしたいか」「自分はどんな子どもたちを育てたいか」っていうことを教員のひとりひとりが考えて動ける学校にしたいね。

職員室前に張り出された写真

職員室前に張り出された写真。中央には太田先生が書いた「楽」の文字が

 

叱られてばかりの学生時代

——太田先生が教員になろうと思ったきっかけは何だったんでしょう?

学校がずっと楽しかったからやろうね。

それで高校受験で進路を考える時に「教員になろう」と思った。

——どんな学生時代だったんですか?

叱られてばっかりやったね(笑)

小学生の頃は窓ガラスをしょっちゅう割ったり、じっとしてられなかった。当時は家でも学校でも、決めつけられたり押しつけられたりすることが多くて我慢できなくて、それが落ち着きのない行動に現れていたんだと思う。

笑顔で話す太田先生

「窓ガラスが割れると僕やなってなってた(笑)」

 

——いきなりヤンチャなエピソードが…!

僕が多動なところがある自由な人間やから、当時の「みんなの形を合わせる教育」と合わなかった。

中学校に行っても、勉強せずに友だちと遊んだりラジオの深夜放送ばっかり聞いてた。『今夜もシャララ』とか『ミッドナイト東海』、『オールナイトニッポン』とかね。それを聞いて学校では寝てる。

まだ子どもで幼稚やったんやね。

——子どもたちに勉強を教える立場としてこのお話は大丈夫なんでしょうか…(笑)

「教員になろう」って決めた中学3年生の夏から必死に勉強した(笑)

やっぱり勉強は目的がないとやる気にならないし、身にもつかない。その目的をつくるためにも、たくさんの刺激を受けて『自分のやりたいこと』に気づけたら良いよね。

お話する太田先生

「中学生の勉強ってほんと大人になってからも役に立つ。当時もっと学ぶことに喜びを感じていたら、もっと今に活かせるものがあったんだろうなって思う」

 

——ご自身の経験や、当時の教育への反動が今の太田先生の教育に繋がっているんですね。

そうやね。自分が感じたような思いは今の子どもたちにさせたくない。

もちろん昔の教育のおかげで打たれ強くなったりした部分もあるけど、同時に可能性や個性を押さえつけることになるよね。

——「当時の教育とは合わなかった」なかでも、太田先生が学校を楽しめたのはどうしてなんでしょう?

友だちのおかげやね。

自分勝手で人にいっぱい迷惑をかけても、突き放さず僕と付き合ってくれた仲間の存在はとっても大きかったと思う。

 

大学の時から今もずっと合唱団に入っとるんやけど、何年か前に東京で演奏会をやった時は白川中学校の同級生がたくさん集まってくれた。今年の4月の京都での演奏会にも、わざわざ白川から来てくれた。感謝しかない。

迷惑をかけたことへの罪滅ぼし、恩返しという想いが、今自分が頑張れるエネルギーにもなっていると思う。

合唱でソロパートを歌う太田先生

合唱でソロパートを歌う太田先生(写真手前/ご本人提供)

 

——「自由に楽しいことをする」という太田先生の姿が、同級生の方にも魅力的に映っているように思います。

友だちに支えられて、そのおかげで学校を楽しむことができて教員になったんだと思う。

だからこそ今の子どもたちにも「楽しい環境」を用意してあげたいね。もし家で嫌なことがあっても、学校に行けば大丈夫と思えるような場所にしてあげたい。

太田先生について笑顔で話す白川中学校の先生たち

取材終わりには先生たち同士で「校長先生はどんな人か」のインタビュー合戦が始まりました!これだけでも学校の雰囲気の良さが伝わってきます

 

やりたいことに向かって一生懸命生きる

——太田先生が今後やっていきたいことなどあれば教えてください。

前の学校でもやったんだけど、知り合いのオペラ歌手やモノマネタレントを白川中学校に呼びたい。

普段は直接会えないような人を子どもたちと繋いで「こんな生き方があるんや!」って勉強できる機会をつくりたいなと思ってますね。

——すごい楽しそう…!まさに自由な太田先生ならではの企画という感じがします!

もちろんこれまでの教員生活では上手くいかなかったこともあるし、今でもたくさん失敗する。過去には子どもを頭ごなしに叱ってしまったり、新しい取り組みが失敗したこともあった。

——太田先生自身も、たくさん考えて行動してきたからこその今があるんですね。

これまで7つの市町村で教員をして、いろんなことを勉強させていただいた。それが白川の教育に活かされれば良いなと思ってる。

 

失敗から学んで、自分がやりたいことに向かって一生懸命生きるのが大事やね。

自分で考えて決めたことなら、失敗や挫折をしてもそこから這い上がることができると思う。子どもたちにもそう生きていってほしい。

太田先生が筆で書いた「夢」という文字

 

「大学からずっと合唱部で”自称歌手”なので、校長の話をする代わりに歌を歌ったこともある。校長の話なんて誰も覚えてないよ、聞いてないし。だったらインパクトのあるほうが良いかなって」

 

太田先生らしさが詰まったエピソード。

そのインパクトが記憶に残り、いつか何かと繋がって子どもたちの可能性を広げるきっかけになるかもしれません。

 

【太田紀宏(おおたともひろ) さん

出身   :白川北地区

学校  :岐阜県立加茂高等学校、京都産業大学

職歴  :教員

趣味  :合唱、山登り、音楽鑑賞、キャンプ、読書など

読んでくれている人に一言  :気軽に学校にお越しください。子どもたちの将来の幸せのためにいろんなお話を聞かせていただけると嬉しいです。おいしいコーヒーを淹れてお待ちしております。

 

取材年月:2023年07月 

【白川町立白川中学校】

〒509-1105

岐阜県加茂郡白川町河岐1830

TEL 0574-72-1043

 

ホームページ→https://shirakawa.scblo.jp/shirakawatyu

 

  • 取材執筆:

    澁谷尚樹

  • 写真:

    服部健人

  • 監修:

    白川町役場企画課・Anbai株式会社

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家を『屋号』でよびあう慣習が根づく白川町そんな町の想いを集め人と集落と未来をつなぐ